「超実戦的」理系の英語力を飛躍的に高める秘策を伝授!

科学論文独自の"暗黙のルール"とは?

意外と知らない!? 理系英語の"暗黙のルール"

英文の構造には、受動態と能動態があるのは知っていますよね?

では、英語論文においては、一人称の「I」や「We」を使った能動態の文をなるべく避ける傾向にあることをご存じでしょうか? 意味が同じならどちらでもいいじゃないか、と思うなかれ。知らないと損する“暗黙のルール”が存在するのです!

現象や観察結果や事実を、主観を交えず客観的に述べることを使命とする理系英語においては、主語をできる限り “非個人的(impersonal)”にする傾向がある。ー本文より

事実に従って論文を書こうとすれば、あなた自身が行ったことについて述べるときに、ついつい「I」や「We」を使って文章を書いてしまいがちです。ところが研究論文の場合、その結果は第三者によって再現可能であるような普遍性が重要となるため、客観的表現である受動態で書くことが望ましいことが多いのです。以下の例で確認してみましょう。

  1. We examined the soil and found it contained dioxin.
  2. The soil was examined and was found to contain dioxin.

 (本文より)

(1)の文だとどうしても主観的で、普遍性が担保されていない物言いに見えてしまいますよね。英語論文においては、(2)の文章を書くほうがより好ましい表現だと言えるのです。最近では、読み手を含んだ意味での「We」が使われる場合もあるようですが、これにも“暗黙のルール”があります。たとえ「たったひとり」で行った研究結果に関する論文でも、「I」ではなく「We」を使わなければならないのです。意外でした!

ちなみに、「I(Ich)」を使って書かれた論文は、著者の志村さん曰くアインシュタインくらいのものらしいです。さすがは独創の天才。アインシュタインにとっては、論文でさえ個人ブログのようなものだった、ということでしょうか(笑)。

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日本人特有の“落とし穴”

非常に興味深い記述がありました。

それは「日本語⇔英語間の翻訳は避けるべき」というものです。初めて英語論文を執筆する際には、「いったん日本語で原稿を書き、それをもとに英語化する」という手法で書く人が多いのではないでしょうか。

一見、最も妥当な手順のように思えますが、意外な落とし穴があります。それは、言語間の文法構造の違いです。たとえば、次の英文を和訳することを考えてみてください。

Silicon, which has been and will be the dominant material in the semiconductor industry, will carry us into the ultra-large-scale integration(ULSI)era. ー本文より

この文章では、「Silicon」に対して関係代名詞による情報付加がされています。専門的な物質,現象を扱うことが多い理系英語では、このような文章構造がひんぱんに見られます。ところが、これを和訳してみるとどうでしょうか?

原文同様、1文にまとめようとすれば、「半導体産業において主たる原料であるシリコンは~」などのように、頭でっかちな主語を置くことになります。また、「which has been and will be」の「いままでも、そしてこれからも」というニュアンスを綺麗に和訳するのは至難の業でしょう。理系英語の文章としては、2文に分けたほうが無難だと考えられます。

このように、英語では無理なく1文に収まっていたものが、日本語に訳したとたんにいびつな文章になってしまうことがあるのです。文法や構造が違うので、むしろ当たり前のことです。

逆に言えば、日本語の文章を英語に直訳する、という行為は日本語のルールに沿って英文を考えることになるので、英語特有の言い回しを忘れがちになります。英語論文執筆の際には、日本語は内容のメモ書き程度に留めておき、文章は直接、英語で書いたほうがうまくいくのです。

また、言語構造の違いだけでなく、謙虚なふるまいをよしとする日本の文化が、英語論文としてのクオリティに悪影響を及ぼす例もあります。控えめな物言いに慣れているせいか、「~のようだ」「~の可能性がある」のように断定を避けた、あいまいな表現が増えてしまう傾向にあるそうなのです。査読経験豊富な志村さんによれば、日本人に特に顕著な例が以下のような表現です。

  • 〜may be possible
  • 〜seems that ... could be possible
  • 〜is supposed ... in some cases

 (本文より)

これらの表現には、二重に確度を下げる表現が含まれており、論文としては非常に弱々しい主張であるとの印象を与えてしまいます。日本人としての言語や文化が、英語論文執筆に与える影響は想像以上に大きいものです。日本文化に染まった頭を柔軟に切り替えて、論文執筆に取り組まなければいけませんね!

「英語力」を飛躍的に高めるには?

本文中で繰り返し強調されているとっておきの英語習得法として、「語句の意味を調べるときは、英和辞典ではなく英英辞典を使おう!」があります。英和辞典はあくまで、「英語の単語に相当する日本語」をまとめているものですから、厳密に同じ意味の単語が並んでいるわけではありません。ネイティブの感覚に寄り添った文章を書くなら断然、英英辞典を使うべきですし、なにより深い勉強になるというのです。

英英辞典を実際に使ってみましょう。

「〇〇が大きな影響を与えている」という表現を書きたいとしましょう。実験結果の考察などでよく出てくる表現ですよね。この場合の「大きな」に相当する単語には、何を使うべきでしょうか? オンラインの英英辞典として紹介されているCOBUILD英英辞典( https://www.collinsdictionary.com/ )を使って調べてみましょう。「大きな」という意味の単語ですから、ひとまず「big」で調べてみると、以下の説明文が見つかりました。

COBUILD英英辞典における「big」の検索結果

「big」の意味を考えたとき、「(物質的な)大きさ」を表すことが大半ですが、英英辞典を読むと「great in degree, extent, or importance」とあるので、「物事の重要さ、重大さ」を表現するときにも使えそうだと見当がつきます。

ならば、先の例文において「大きな影響」は「big effect」と書いても問題なさそうですが、ちょっとしっくりきませんね(このように書いている論文もあります)。ここで上の画像をよく見ると、Synonyms(類語)が載っています。「important」や「significant」はしっくりきそうです。続いて、「significant」の意味を見てみましょう。

COBUILD英英辞典における「significant」の検索結果

説明文を読むに、明らかに「effect」との相性が良さそうです。このように、意図した表現に合致する英単語を英英辞典から探すことができました。英英辞典は、単語の意味に関してネイティブの感覚そのものが記述されていると言え、正確で明快な表現が要求される理系人こそ、必須のアイテムなのです。

いかがだったでしょうか?

この記事で紹介した内容は、この本のエッセンスの一部にすぎません。一読すれば、自分の書いた文章の「理系英語としての質」を見抜く素養が身につくと思います。本文中にも明記されているように、「すぐに英語論文を書けるようになる」わけではありませんが、読んですぐ自分の論文執筆に役立つことも数多く書かれています。

私はちょうどこの本を読んで、とある国際会議への投稿論文を書き上げました。そのときは一見、遠回りのような英英辞典の使用が文中の表現に自信を与えてくれましたし、1文1文を短く、簡潔に書くことを意識するだけでもすっきりした内容に仕上げることができました。

また、論文を完成にこぎ着けるには、自分が書いた文章に対して、「ここがおかしい」「こっちの表現のほうがよい」などの評価基準をもってないと作業が進みませんよね。

その評価基準の大枠を、読み物として楽しく教えてくれるユニークな本なのです。
いきなりすべてを吸収できなくても、執筆の際にお手元に置いておけば大いに役立つはずです。また、そうやって悩んで書き上げた文章は、後にまた論文を書くときの最高の表現集として、あなたを助けてくれることでしょう。

理系のための「実戦英語力」習得法 最速でネイティブの感覚が身につく

  著 : 志村 史夫

  定価: 1080円(税別)

「確実にネイティブに通じる」正確で明快な英語が、誰でも必ず書けるようになる!理系英語の最重要ポイントは、主張すべき科学的・技術的内容を、正確・明瞭に、誤解なく伝えること。国際的に通用する「書く力」は、どうすれば体得できるのか?実戦力強化につながる、効果的な辞書の使い方とは?英語による論文・書籍を多数執筆し、有力誌の査読者も務めた著者が、「ネイティブが正確に理解してくれる英語」を書く秘訣を伝授する。

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