天才アインシュタインの「脳」の秘密がわかった!

グリア細胞が突出して多かった
R・ダグラス・フィールズ
マリアン・ダイヤモンド博士らがアインシュタインの才能の手がかりを求めて調査したアルベルト・アインシュタインの大脳皮質の部位。(A)前頭前野、(B)下頭頂野

ダイアモンド博士はヒト大脳皮質の解剖学を長年研究してきたが、その経験でさえも、ヒト脳から採取された、クリーム色をした角砂糖ほどの大きさのこれら4つの小塊を光にかざしたときに湧き上がる驚異や興奮や期待感を弱めることはなかった。

そのサンプルは特別だった─少なくとも、その脳から発現した知性はそうだ。

アインシュタインの類いまれな才能を、この脳組織が生み出しえた秘密を突き止められれば、知性と脳を結びつける細胞機構についての洞察が得られるはずだ。そしてまた、私たち自身の脳がどのように機能し、不運にも病に見舞われた知性がどうして機能不全に陥るのかについても、明らかになるだろう。

ダイアモンドには、これらのサンプルを適切な対照サンプルと比較して考証する必要があった。ある疑念に彼女の興奮はすっと冷めた。

というのも、彼女の研究室には、さまざまな多くのヒト脳から採取した組織サンプルを載せた顕微鏡スライドを収めた箱が、所狭しと並んでいるが、アインシュタインの脳はひとつしかないのだ。

アインシュタインの脳がきわめて非凡な性質であるということは、どのような結果が得られるにせよ、その実験はけっして再現できないことを意味していた。

ある実験の結論を下すにあたって、科学者の誰もが直面する不確実性という課題は、再現可能性がない場合には、いっそう払拭困難になるだろう。どのようなデータから得た結論も、誤りである可能性を免れない。だが科学は、観察やデータ収集、事実の蓄積によって進歩するものだ。

となると、アインシュタインの脳を調べるのは、やめておいたほうがいいのだろうか?

実験結果の不確実性に対処するために、科学者は計測を繰り返して、対照群と実験群から得たデータの差異がまったくの偶然によって生じうる確率を数学的に算出する。これは、犯行現場に残されていた一本の金髪の有意性を、母集団に金髪の人物をどれほどの確率で見出せるかを知ることによって、ある程度判断できるのと似ている。

意外な解析結果

ダイアモンドは同僚とともに、それらのサンプルの細胞構造を調べる準備に取りかかった。そのためには、脳組織を細胞の直径よりも薄くスライスし、染料で着色しなくてはならない。

そうすると、その組織を形成している細胞の集合体の中で、個々のニューロンをつぶさに見分けられるようになるのだ。スライスされた切片は、15枚重ね合わせても人間の毛髪ほどの厚みにしかならない。

ダイアモンドの前には、鮮やかな色の溶液で満たされたガラス皿が並んでいた。深紫色からキラキラと輝くピンク色までの色彩を帯びた溶液は、水の表面に拡がる油膜のように、光の加減によっては緑色にも見えた。

ダイアモンドは準備された組織切片を取り揃えると、絵画用の細い筆を使って、切片を一枚ずつ染色液の入った小さなガラス皿に移した。

翌日、彼女がそれらの切片を顕微鏡で観察しているとき、形のない霧の中に影が浮かび上がった。降下する飛行機が雲を抜けて、窓外に街の全景が飛び込んでくるときのように、突如として、ひとつの像が細部まで鮮明に姿を現したのだった。

 

彼女が見ていた細胞は、アルベルト・アインシュタインの大脳皮質の一部分から採取したニューロンだった。

ひょっとすると、これこそが光線に乗っているところを想像していたニューロンかもしれない。このニューロンは、アインシュタインの大脳皮質の別の部位にある普通のニューロンとどこが違うのだろう? たとえば、指に指令を送って、この想像を現実の世界で具体的に表現する数学の記号を紙に書き記させていたニューロンとはどう違うのか? 

また、目の前の謎めいた至宝をじっと眺めているこのとき、精神の回路を通してイメージや思考を想起させている彼女の大脳皮質の同じ部位にあるニューロンと、このニューロンにはどんな共通点があるのだろう? このきわめて小さな細胞が、世界を劇的に変えることができたのはなぜなのか? このニューロンは、アイザック・ニュートンの同じ脳部位のニューロンと比べてどうなのか?