春の高黎貢山(保山市)の山嶺(筆者撮影)

「中国人なら死刑だぞ」中国当局に捕まった私が生還できた理由

「なぜこんな場所をうろついている?」

ジャーナリストではなく「中国奥地で活動する70歳の自然写真家」という視点から、「中国の地方」の実態を写真と文章で切り取る青山潤三氏の連続レポート。なんと、「中国当局に取り調べを受けた」ことが2回もあるそうで…。

タクシーの運転手にハメられた

近年、日本人が中国で逮捕・軟禁されたという事件が時折話題になります。どれも日本から派遣された企業の職員だといいます。

筆者も中国で、これまでスパイ容疑で2度逮捕・軟禁されました。ただし、筆者のようにどこにも所属しないフリーランスの個人が逮捕軟禁されたところで、ニュースにもなりません。

一度目は1990年の春、陝西省の秦嶺山脈。日本固有種「ギフチョウ」に最も近縁な種で、当時発見されて間もない「オナガギフチョウ」という蝶の撮影・調査を行っていた時のことです。

筆者は西安の町のホテルから、丸1日がかりでオナガギフチョウの棲む山間部へ往復していました。現地に向かう公共交通機関は存在しないため、タクシーをチャーターしていたのです。

 

実はその前年、別の町から秦嶺の山にタクシーで向かった時、悲しい出来事に遭遇しました。山麓の田舎の道路で、自転車に乗っていた2人の女子中学生が、トラックにはねられて亡くなっていたのです。

人だかりができ、傍らでは一緒にいた同級生が泣き続けています。しかし周りの大人はただ眺めているだけで、何一つ手助けをしません。

そこへタクシーで通りかかった筆者に、彼女たちは懇願してきました。どうか、町まで連れて行ってほしい。みんなに知らせて(もう遅いけれど)救急車も呼んで…。

面倒ごとに関わるのを嫌がる運転手を説得し、一人を町まで送って、改めて山に向かいました。その日の夕刻、調査を終えて町に戻ってきたら、街角で同級生たちがいまだに泣き続けていました。30年近く経つ今も、筆者の脳裏から消えることのない光景です。

そんなことがあった翌年、西安のホテルでチャーターしたタクシーの運転手は、とんでもなく運転が乱暴でした。自分が事故にあうのはともかく、人を撥ねては大変です。何度も「安全運転をしろ」と運転手を叱りつけました。

あまりにも乱暴なので、2日目は別のタクシーをチャーターしました(当時は丸1日チャーターしても2000~3000円ほどで済んだ)。そして、調査を終えてホテルに戻ったら、入り口に公安が待ち構えているではありませんか。

実は、前日のタクシーの運転手が、叱られた腹いせに公安局に密告していたのです。この日本人は、誰も行かない山中に分け入って、道端の草むらや、何にもないただの山肌や、ただの河原ばかり撮影している。スパイに違いない、と。

この時は大使館が動いてくれましたが、疑いはいつまで経っても晴れません。結局まる1ヵ月近くホテルから一歩も出れず、連日取り調べを受けました(取り調べ自体は紳士的でした)。

秦嶺山脈で撮影したオナガギフチョウ(筆者撮影)

「観光客が行かないところへ行くな」

彼らの言い分は、「日本人がわざわざあんな山中に行くわけがない。何もない場所で山肌や河原の撮影をしているのは、どう考えても怪しい」。

蝶や植物の撮影が目的だ、と伝えても、端から信用してくれません。高いカネ(日本からの渡航費)を払って、わざわざこんなところまで蝶の写真を撮りに来るなんて、常識では考えられない、と。

またそれ以前の問題として、著者が訪れた一帯は「開放地域」ではない、と彼らは言いました。20年ほど前まで、中国各地は外国人が自由に行ける「開放地域」と、立ち入りに許可が必要な「非開放地域」に分かれていました。著者の訪れた場所は、行政上は開放地域である西安市内です。

しかし公安は「あなたの行ったところは西安市内には違いないが、そこは非開放地域なのだ」と言います。

筆者は尋ねました。「どこが開放地域で、どこがそうでないのか教えてほしい」

すると、こんな答えが返ってきました。

「別に線引きがあるわけではない、日本人の観光客が行くところが開放されているのであって、日本人の観光客が行かないところには、日本人は行ってはいけない」