アジアの生活を激変させた、最新フィンテックの「破壊力」

こうしてデジタル社会が到来する
小林 啓倫 プロフィール

格安航空会社も電子マネーに参入

前編の冒頭で紹介したように、インドネシアのバイクタクシー配車アプリ「Go-Jek」は、独自の決済システムを提供することでサービスの拡大を図っている。

これと同じような展開が、マレーシアでも見られる。同国で人気を博しているタクシー配車アプリ「Grab」が、独自の決済サービス「GrabPay」を開始したのだ。

Grabは2012年に立ち上げられたサービスで、当初はタクシー配車を行っていたが、その後Go-Jekのようなバイクタクシーの配車サービス、Uberのような一般の人々が運転するクルマの配車サービスなどに拡大してきた。

そして参入したのが決済の分野で、はじめは同社による配車サービス時の支払いに限定されていたが、既に小売店での支払い等にも使用できるようになっている。

キーノートスピーチを行った、Grabの共同創業者Anthony Tan

実は非金融機関による決済サービスへの参入は、アジア地域におけるトレンドのひとつとなっている。

今回のMoney20/20に合わせ、世界的な会計事務所のアーンスト・アンド・ヤングが「ASEAN FinTech Census 2018」というレポートを発表しているのだが、それによればアセアン諸国のフィンテック企業のうち、決済サービスを提供しているのは全体の33パーセント。

実に3社に1社が決済分野で活動しているということになる。さらに送金サービスまで加えると、この割合は54パーセントになり、半数を超えてしまうそうだ。

なぜ決済サービスがこれほど賑わっているのか。関係者からさまざまな解説がなされているが、シンガポールに拠点を置くユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)は、次のような点を指摘している。

・インターネットへのアクセスの普及、特にスマートフォンの普及により、若くてテクノロジーに強い消費者が急激に増加している。
・ASEAN諸国は経済が好調で、小売業、特にeコマース分野が急速に拡大しつつあり、それに対する便利で安全な決済サービスが求められている。

また前述のように、これらの国々では伝統的な金融サービスがそれほど普及していないことを思い出そう。デジタル機器を通じて、リアルタイムにアクセスすることが可能になった数多くの消費者たち。しかも彼らは、既存の金融サービスを利用していない。彼らを狙い、新たな決済サービスを立ち上げる企業が相次いでいるのである。

 

さらに前述の「ASEAN FinTech Census 2018」では、非金融機関による決済サービス参入によく見られるパターンのひとつとして、「既に多くの顧客を獲得している消費者向けサービス企業が、顧客基盤の活用とサービスの差別化を目指して決済サービス提供に踏み切る」という形を紹介している。

まさしくGo-PayやGrabPayのパターンだが、Money20/20 Asiaではもうひとつ、ユニークなサービスが登場している。それが「Big Pay」だ。

Big PayはMoney 20/20 Asiaで公式発表がなされるという、まさに真新しい決済サービスなのだが、展開している企業は格安航空会社(LCC)のエアアジアである。

同社はアジアのLCCとして最大手で、年間乗客数は約5700万人に達する。この顧客基盤を活かし、金融分野にまでサービスを拡大し、顧客の囲い込みを図ろうというわけだ。

エアアジアのトニー・フェルナンデス創業者兼CEOは、Big Payで国際送金サービスにまで参入するつもりであると語っている。彼が武器として指摘したのが、同社が持つ顧客データだ。

航空会社なのだから当然だが、エアアジアは多くの人々の移動記録を有している。それを利用することで、国際送金サービスの潜在的な顧客にアプローチすることや、彼らに合わせたサービスを展開することが可能になるというわけである。

生活に根差したバイクタクシーを支援するベンチャー企業や、アセアン地域の人々に空の旅を身近なものにした航空会社。それぞれが独自の視点から、決済サービスを提供している。

一見すると、雨後の竹の子のように見えるアジア諸国の決済サービスも、近づいて見ればそれぞれの特色を活かした活動を行っていることがわかるだろう。