『ノストラダムスの大予言』なんでみんな信じちゃったのか

山本弘×片山杜秀×大槻ケンヂ
週刊現代 プロフィール

片山 『ノストラダムスの大予言』がオカルトブームの先駆けにもなったのは確かでしょうね。'74年にはユリ・ゲラーが来日し、子どもたちの間で「超能力ごっこ」が大流行しました。

私のクラスにも給食のスプーンを全部曲げてしまうクラスメイトがいました。それからコックリさんブームや心霊写真ブームなんかもありました。

その後、'80年代からは五島さん以外の人たちがノストラダムス業界に参入してきて、色んな本を書いて盛り上げていった。

山本 「私が恐怖の大王だ」と書く人もいれば、「私はノストラダムスの生まれ変わりだ」と書く人もいた。「私が過去の世界で予言書を書いていた」と主張する人もいたし、ありとあらゆるパターンがありました。

そうしたノストラダムス関連本が世紀末直前の'98年から'99年にかけてさらに大量に出てきた。

 

興味深いデータがあります。警察庁の犯罪の統計のグラフを見ると、犯罪率が'99年のちょっと前ぐらいに増加してるんですよ。で、2002年あたりから段々と減少している。

研究したわけじゃないから正確なことはわかりませんが、僕はノストラダムスの予言を信じてた人が結構いて、そういう人がやけくそになって犯罪に走ったんじゃないかと思っています。

大槻 それは面白い視点ですね。僕は、さすがに当時はもう人類が滅ぶなんて万に一つもないと確信していましたが。 

僕にとって『ノストラダムスの大予言』は読書における「交通事故」なんです。突然、人類が滅亡すると言われて信じ込まされたけど、その経験があるから以降、リテラシーに気をつけるようになった。

今でも北朝鮮が核ミサイルを撃ってくる恐怖とかメディアではさんざん喧伝されるけど、「なんとかなるっしょ、'99年に何もなかったんだから」という気持ちもあるんですよ。

片山 五島さんは2001年9月11日の同時多発テロが予言の日だったんだと釈明していますよね。実際、ノストラダムスのいう「空から恐怖の大王が降ってくる」という感じだったわけで、「2年しかズレていなかった、すごい」とも言える。

書かれていたことは、現在の国際情勢に照らし合わせても、まったくの見当違いとは言い難いところがあります。何月何日に何が起きるというところまでは当てていなくても、時代の大きな流れを読み解き、ネガティブな可能性を言い当ててみせた。

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大槻 僕は五島さんにはトップ屋稼業としての面白さを感じるんですよ。飛ばしてナンボの世界で五島さんは最大のお仕事をされた。

願わくば、彼の評伝を読みたいですね。ご存命の間に、彼がトップ屋としてどうのし上がり、どうけじめをつけたのか語っていただきたい。

片山 私はそんなふうには必ずしも思わないですけど。当時の日本を生きる人々の不安の百科全書を、ノストラダムスを方便にして五島勉は上手にまとめた。

時代を証言し、現代に警鐘を鳴らす、依然として名著だと思います。読み方を誤ると、確かにただの迷著なんですけど(笑)。

山本弘(やまもと・ひろし)
56年京都府生まれ。'78年、SF作家としてデビュー。またゲームデザイナーとしても活躍。著書に『神は沈黙せず』『アイの物語』など
片山杜秀(かたやま・もりひで)
63年宮城県生まれ。慶應義塾大学法学部教授。音楽や映画、日本近代思想史を中心に批評活動を行う。著書に『未完のファシズム』など
大槻ケンヂ(おおつき・けんぢ)
66年東京都生まれ。'82年ロックバンド・筋肉少女帯を結成。またエッセイスト、小説家としても活躍。著書に『グミ・チョコレート・パイン』など

「週刊現代」2018年4月28日号より