『ノストラダムスの大予言』なんでみんな信じちゃったのか

山本弘×片山杜秀×大槻ケンヂ
週刊現代 プロフィール

日本人しか知らない存在

山本 そもそもノストラダムスはルネサンス期(16世紀)のフランス人医師で、本業以外にも、化粧品やジャムの作り方を本にまとめるなど多才な人物でした。

一方で『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』などの予言詩を多数著しており、予言者としても知られていた。それを作家の五島勉さんが『ノストラダムスの大予言』で紹介し、日本で広く知られるようになったのです。

海外ではノストラダムスの名前はオカルト好きの間では有名ですが、普通は知らない。国民のほとんどが知っているというのは日本だけです。

しかし、『ノストラダムスの大予言』には五島さんの自己流解釈が多分に含まれています。

確かにノストラダムスは「1999の年、7の月 空から恐怖の大王が降ってくる」と予言めいた詩を書いていますが、自身の詩を「3797年まで絶え間なく続く出来事の予言である」と言っており、1999年に人類が滅亡するというのは五島さんの創作なんです。

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大槻 五島さんはノストラダムスの名前を使って、あの手この手でこの世が終わると説いていましたよね。あの言い切りっぷりというのかなあ、あの文体が、今読むと笑ってしまうのですが、当時は怖くて仕方なかった。

山本 『トンデモノストラダムス本の世界』('98年)を執筆する前に、『ノストラダムスの大予言』を改めて読み直したのですが、本当にめちゃくちゃでした。

例えば原典にある「カルマニア」(現イラン・ケルマーン地方の古代の呼称)という単語を「カーマニア」と解釈して、ノストラダムスは、現代の車社会を予言していたんだと主張してる。

書いてある内容は当時新聞で騒がれていたような社会問題や環境問題にすぎない。でもこれが「実はノストラダムスが予言していたことなんです」というふうに提示されると、なんだかすごいことが書いてあるように見えてしまう。五島さんの筆力も相当なものです。

片山 そもそも五島さんはノストラダムスの研究者ではないですよね。もともと週刊誌のライターで、その後、作家に転身して、米軍兵に犯された女性のルポルタージュなどを書いていた。

 

山本 『ノストラダムスの大予言』にしても、最初の企画段階では10人の予言者を紹介する本として構想されていたんです。編集者がノストラダムスに絞って書けと指示したそうです。

片山 編集者の機転が功を奏したんですね。

山本 販売部数は発売わずか3ヵ月で100万部を超え、1974年の年間ベストセラー2位にランクインしています。当時、日本はオカルトブームや終末ブームに沸いていました。

小松左京さんの『日本沈没』はその最たる例でしょう。五島さんはそのブームにうまく乗っかったと言えるかもしれません。

片山 『ノストラダムスの大予言』を語る上で『日本沈没』はかかせませんよね。当時、ベストセラーになってすぐに映画化された。

しかも大ヒットした直後にオイルショックが起きました。節電のためにテレビは深夜放送を休止し、野球の試合も開始時間を早めて開催された。

百貨店のエレベーターもエスカレーターも全部止まって、エスカレーターを歩いて上ったのをよく覚えています。本当に終末後の世界みたいだった。

大槻 光化学スモッグ警報が出て、外で遊べないことも日常茶飯事でしたね。核戦争や地震でこの世が終わるんじゃないかという不安感を子どもながらに持っていました。

また、ベトナム戦争が終わった頃には、『アサヒグラフ』に銃で身体がバラバラになっている子どもの死体の写真が載っていたり。死や滅亡が遠くにあるものには思えなかった。

片山 そうした社会全体に不安感が覆いかぶさっていた時期に『ノストラダムスの大予言』という一冊の本が出たわけです。