撮影:立木義浩
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三枝成彰と島地勝彦が高円宮殿下と飲み明かした夜

タリスカー・ゴールデンアワー第13回(後編)

提供:MHD

⇒前編【オペラ制作に63億円を注ぎ込んだ作曲家の寝酒とは

(構成:島地勝彦、撮影:立木義浩)

シマジ: 三枝さんが偉いのは、毎年、上野の東京文化会館で、12月31日の午後1時から午前0時前までかけて、ベートーヴェンの交響曲1番から9番までを通しで聴かせる、マラソン演奏会をやり続けていることでしょう。旭日小綬章を受章はそれがかなり評価されたのではないでしょうか。もう何年になりますか?

三枝: 今年で16回目です。まあ叙勲のことはともかくですね、ベートーヴェンは特異な作曲家で、生涯でたった9つの交響曲しか書いていないんです。ハイドンは100曲以上、モーツァルトだって40曲以上は作曲しているのにですよ。

シマジ: それはどういうわけなんですか?

三枝: ベートーヴェン以前に交響曲が量産されたのは、コンサートの幕開けとフィナーレの音楽として使われていたからでしょう。また、その頃の作曲家はだいたい王侯貴族のお抱えであり、職人だったため、頼まれれば「ハイ、ハイ」と言って作ったわけです。

ところがベートーヴェンの有名な第9などは、完成までに約12年間もかかって作られたものなんですよ。第8交響曲までは2,3年に一作のペースで作っていたんですけどね。

ヒノ: 第9は日本人が一番好きな交響曲ですよね。12月になるとあちこちで耳にします。

三枝: 当時としても、あの声楽付きの壮大な交響曲は、破格の作品だったんですよ。1824年5月の初演は大成功を収めたそうです。

交響曲第1番から第8番までは、ベートーヴェン自身が指揮者として活躍しているんですが、第9は、耳の病の悪化から指揮をウムラウフに委ね、テンポを指示するなどの総指揮者として参加しました。

そのとき、終演後の万雷の拍手に気がつかずにいると、アルト歌手がベートーヴェンの手を取って聴衆の方へ振り向かせ、そこで彼ははじめて会場の熱狂を知ったというエピソードはあまりにも有名ですよね。

立木: いつか三枝さんに聞いた話だけど、ベートーヴェンっていうのは王侯貴族のお抱え作曲家ではなかったんだよね。

三枝: その通りです。まさに史上初のフリーランス作曲家だったんです。フリーだったからこそ、「音楽家は偉大なる芸術家である」と堂々と言えたんでしょうね。

彼は、音楽を芸術であると最初に言った人であり、楽曲は商品ではなく、作品だと考えていました。

シマジ: たしか哲学者のカントなどは「音楽は芸術ではない」とさげすんでいましたよね。

三枝: そう、カントは音楽はその場限りで消えてしまうものだからといって「芸術のなかではいちばん最低」とみていました。そんなことはない、と立ち上がったのがベートーヴェンだったのです。

同時代の哲学者ヘーゲルは、人間の活動には「時代精神」が宿るものだと言いました。ベートーヴェンはヘーゲルに大きく感化されています。だから彼の作品は一曲一曲すべて違う試みをしていて、驚きを与えてくれるんです。後の世の音楽家にも、大きな影響を与えていますよ。

当時の考えでは、音楽というのは、じっくり鑑賞するものではなく、社交場のBGMだったのです。ですから音楽家の地位も低く、料理人や給仕同様の扱いで、あの天才モーツァルトでさえ、宮廷に入るときは使用人の勝手口を使わされていたそうです。

ところがベートーヴェンは、自分の音楽がBGM的に扱われるのを断固として拒否した最初の音楽家だったんです。

ボブ: そろそろ一杯いかがですか。これは秘蔵の一本、第17回リリースのポートエレン37年です。

三枝: ポートエレンですか。あるところにはあるんですね。いただきます。

立木: ボブ、おれにも一杯くれる。

ボブ: 喜んで。ではみんなでスランジバー!といきましょうか。

一同: スランジバー! ゴブラー!

三枝: トゥワイスアップを作るそのエアレーターは、とても便利ですね。わたしもシマジさんにいただいてからこればっかり使ってますよ。

ボブ: それがいまこのエアレーターは、メーカーのほうで生産中止らしいんです。うちでもノベルティーグッズとして使おうかなと思っていた矢先のことで、凄く残念です。

立木: うーん、これがシマジのいちばん好きなポートエレンかあ。フルーティでもありスモーキーでもあり、複雑な味がするな。たしかにいままでここで飲んだものでいちばん美味いよ。

ボブ: さすが。立木先生の舌は確かだと思います。

ヒノ: ところで、シマジさんが集英社インターナショナルの社長時代に三枝さんと一緒に開催されていた勉強会の話を聞かせてください。

ポート エレン 37年(PORT ELLEN 37 YEARS)
アイラ島にある港の名前を冠した伝説の蒸留所ポートエレン。1983年に閉鎖されるまでに残された1970年代原酒を使用した、世界市場でも人気のオフィシャルリミテッドリリース第17弾。