凄腕プライベートバンカーが赤裸々に明かす「お金の増やし方」の鉄則

彼らはこうして年率10%を可能にした
山崎 元 プロフィール

一番面白い部分

そして、本書で一番面白いのは、外資系金融機関(「銀行」だけではないだろう)の職場について書かれている部分だ。

著者の杉山氏は、三井住友銀行時代に自分が担当した顧客とその資産を、ソシエテ・ジェネラル信託銀行にかなりの数うつしたことを告白している。そして、外銀が「顧客を引き抜いて貰いたくて私を採用している」とも書いている。

外資系金融機関では、顧客と資産をどれだけ持ってくるかの期待値が採用の決め手であり、期待に満たない社員はほどなくクビになる。確かに、外資系金融機関のPB部門などに転職して、長持ちしなかった知り合いが複数いるのだが、そのような事情だったのだろうと合点が行く。

ちなみに、営業マンに顧客と資産が付いてくるような状況を、野村證券では「手の内に入る」と言うのだそうだ。もちろん、投資家は彼らの「手の内」になど入ってはいけない。

 

外資系金融機関(「銀行」に限らないはずだ)では、顧客と資産を持っていないとクビがつながらない道理なのだが、そうした中でどんどん自分の預かり資産を増やしていけるのは、「一言で言えば、他人が持っていたものを『奪う』ことに躊躇しない人間だ」と杉山氏は言う。ライバルを辞めて行かざるを得ない立場に追い込み、その人が置いていく資金と顧客をまるまる引き継ぐのが効率的な方法なのだという。

「他人の不幸は自分の幸せ。虎視眈々と誰かが辞めるのを待つ。エリート・プライベートバンカーといっても、一皮剝けばこんな低俗な人生観をもっていたりするのだ」という痛烈な文章もある。

そして、金融機関の側も、こうした生存競争によって、社員が辞めると預かり金の大半が金融機関に残ることを「歓迎しているフシがある」とも言う。

率直に言って、これが外資系の金融機関の大凡の現実だし、個々のメンバーにとっても会社にとってもそれなりに経済合理的なので、急に変化するとは思えない。

外資系の金融機関に就職したり、転職したりしようとする人にとって、この本のこの部分は大いに参考となるはずだ。覚悟を決めて、心構えを持って、入社するべきだ。

顧客の側では、プライベートバンク・ビジネスの立派なオフィスとバンカー達の微笑みの裏側がこのようにな状況であることを弁えておこう。もちろん、彼らは皆、あなたから手数料を取ることをひたすら狙っている。

貧乏人からは稼がない

最後に少し、プライベートバンカーを目指す人の励みになることを申し上げようと思う。

今後、貧富の格差は益々拡大する一方で、金融ビジネスのAI化・ロボット化は益々進むはずだ。日本でも、人口の上位1%が国内金融資産の半分以上を持つようになるのは時間の問題だろう。

金融ビジネスに関わる人の大半は、大きな声では言わないが「これからは、貧乏人を相手にしても仕方がない」と思っている。金融ビジネスにあって、プライベートバンクのサービスは、相対的に人間がより長く関わることの出来る領域だろう。

また、杉山氏に「低俗な人生観」を持っていると言われたプライベートバンカー達だが、一点だけ彼らを許せるのは、彼らが「お金持ちからしか儲けていない」ことだ。

貧乏人から稼いでいない点は、市井のリテール金融マンよりも少しだけ偉いかも知れない。この点についてだけ、彼らを「エリート」と呼んでもいいのかも知れない。