凄腕プライベートバンカーが赤裸々に明かす「お金の増やし方」の鉄則

彼らはこうして年率10%を可能にした
山崎 元 プロフィール

但し、著者の仕事を弁護すると、このような保険契約は日本国内では無理だし、海外のプライベートバンクを使うことで保険契約やファンドを担保にした借り入れ、すなわちレバレッジの利用が可能になっている。このような契約が可能な保険会社を探したり、保険契約用にオフショア法人を設立したりといった工夫が入っている。

敢えて、一点に絞ると、海外プライベートバンクを使うと、レバレッジの利用が可能であることを著者は大いに利用している。

「スギヤマスペシャル・プラン1」は、大きな保険契約を得ながら資産を運用したいと考えていて、為替レートが円高にならないことに強い自信があり、加えて杉山氏の人柄に惚れた投資家にとっては、魅力のあるスキームなのだと言えるのだろう。

但し、実質的な内容として、運用にレバレッジを掛けつつ、債券の利回りが無事に得られることに賭ける運用はヘッジファンドがよく使うことがあり、珍しいものではない。債券利回りに前提を置くと運用利回りの目処を顧客に呈示できるし、高度なトレーディングを要するということもない。

ただひたすらハイイールド債の価格が無事であることを「祈る」案外地味な運用と言える。しかし、もちろん、相場の判断が外れた場合には大きな損失が発生するので、地味が堅実である訳では全くない。

ちなみに、「スギヤマスペシャル・プラン2」として紹介されている運用も、レバレッジを掛けてハイイールド債ファンドやデュアル・カレンシー預金で運用する仕組みであって、リスク・テイクの性質はよく似ている。

 

金融マンの職場告白

実は、この本の一番の読み所は、「私がプライベートバンカーになるまで」と題されて、筆者が自らの来し方を赤裸々に語っている第2章だ。

著者の杉山氏は、新卒で日本の証券最大手である野村證券に就職し、その後メガバンクである三井住友銀行、フランス系の大手銀行の子会社であり日本でプライベートバンク・ビジネスを担うソシエテ・ジェネラル信託銀行へと転職し、その後、シンガポールに渡って大手銀行のプライベートバンク部門、ファミリー・オフィス・ビジネスを営む金融機関への転職を経て、現在は日本に帰って独立して富裕層向けのサービスをビジネスにしている。

この間の、著者が各種の金融機関で体験し見聞してきた内容が、実に率直で面白く、役に立つ。一つには顧客である投資家の側から見て金融商品の売り手側の手の内を知る上で参考になるし、また、もう一つには今後金融ビジネスに関わる人にとっての良い職業ガイドとして読むことができる。

著者は、最初の就職先である野村證券に強い愛着を持っているようだ。野村で、どういう人がお金を持っているのかを察知する「嗅覚」や、富裕層の「懐に入る」方法などを学んだと書いている。

投資家の側では、証券マンを自分の「懐に入れる」などということは、とんでもない愚挙なのだが、むこう側の立場から「営業の極意」だなどと言われると、何やら美談のように聞こえなくもない。巧みな話術に感心して、相手を近づけないようにくれぐれも気を付けなければならないと申し上げておく。

但し、野村證券を愛していたらしい著者も、同社にあって、商品を「誰に売るか」は自分で選べるが、「何を売るのか」は選べないところが限界だと思ったと振り返っている。営業マンは、会社が売れと命じたものを売るしかないと言う。大手証券会社は、大企業の株式引き受けを収益源とする以上、「本当の意味での『顧客本位の営業』はなかなか難しいのではないか」というのが杉山氏の見立てだ。

次の勤務先となった三井住友銀行の仕事は、証券の仕事に較べて「ラク」だったと著者ははっきり言う。同行の銀行員は、少し面白くないかも知れない。

また、銀行は、顧客の口座にあるお金が見えている点で証券に対して大きなアドバンテージを持っていることが書かれている。これはその通りであり、一般論として、資産運用は銀行でやらない方がいい。