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ノーベル賞受賞! 本庶佑氏が開発を牽引した新薬が世界を救う

がんを薬で治せる時代はやってくるか?
より副作用の少ない薬だけでがんを治せる時代は、果たしてやってくるのだろうか。大きく期待がかかるのは、「免疫チェックポイント阻害薬」、そして「分子標的治療薬」と呼ばれる薬で、その双方に日本人研究者が大きく関わっている。
抗ガン剤治療のイメージ薬だけでがんを治せる時代はやってくるだろうか photo by iStock

これまでのがん治療法の限界

日本では2人に1人ががんに罹り、3人に1人ががんで亡くなる。1981年に死因トップに躍り出たがんは、超高齢時代と相まって、年間37万人以上の日本人の命を奪う。

局所にとどまったがんならば、手術で取り除く、あるいは放射線を照射するのが、今のところ確実性が高い治療だ。早期がんは内視鏡下の手術もでき、手術支援ロボットの活用などで手術の精度も高められる。また、放射線治療は、よりピンポイントに当てる照射法や線量集中性に勝る粒子線治療などが普及しつつある。手術ロボット、陽子線治療や重粒子線治療は、今春の診療報酬改定では保険で使える対象が拡大された。

 

しかし、負担が小さいと言っても、体にメスを入れたり、放射線を浴びたりするリスクは残る。また、残念ながら、再発・転移したがんは、全身療法である薬に頼らざるを得ない。

抗がん剤を用いたがん化学療法の歴史は、わずか半世紀余りと、100年余りの放射線療法の半分に過ぎない。1940年代から、“毒をもって毒を制する”という発想で、様々な化学物質をがん退治に用いるための研究が始まった。

抗がん剤はその萌芽から日本人が関わっている。46年に化学兵器であるマスタードガスを応用した薬を、血液がんのホジキンリンパ腫の治療に用いたのがその先駆けとされるが、その毒性を弱めて製剤化したのは、石館守三と吉田富三に負うところが大きい。

以後、抗菌薬、天然由来の毒物、白金(プラチナ)……など様々な“有毒物質”が抗がん剤に応用され、一定の延命効果を収めてはいるが、固形がん(血液以外のがん)では根治を目指せるものはなく、正常細胞もダメージを免れず重い副作用が現れる。

世界初の抗PD-1抗体「オプジーボ」

2014年、日本で開発され、免疫チェックポイント阻害薬という新しいタイプの抗がん剤として、オプジーボ(一般名ニボルマブ)が登場した。

発売当初、100mgあたり約73万円(1年間使えば約3500万円)だったが、16年には一気に半額の36万5000円まで引き下げられ、さらに今春の薬価改定では約28万円となり、発売当初から6割安くなった。薬価関連のニュースばかりが目立つが、画期的な新薬であることは、きちんと理解されているだろうか。

オプジーボの開発を牽引したのは、本庶佑氏(京都大学高等研究院特別教授)である。

本庶佑氏 写真
本庶 佑(ほんじょ たすく)
京都大学高等研究院特別教授

1950年代、免疫学者バーネットにより「ヒトの体内では毎日数多くのがん細胞が生じているが、免疫系に排除されてがん発症を防いでいる」という、がん免疫監視説が提唱されると、がんを免疫で抑え込む治療法の開発が進んだ。

監視と共に免疫細胞への指令機能を高める樹状細胞療法、免疫力を強化するペプチドワクチン療法、さらに日本ではサルノコシカケ科のキノコや溶連菌の抽出物も免疫力を増強する抗がん剤として承認された。しかし、いずれも期待に応えるには不十分で、90年代には、がん免疫療法には何となくうさんくさささえつきまとうようになった。

本庶研究室の大学院生だった石田靖雅氏(現・奈良先端科学技術大学院大学准教授)は92年、免疫細胞に発現しているPD-1(Programmed cell death-1)という分子を発見。当初その働きはよく分からなかったが、後に“免疫のブレーキ役”(免疫チェックポイント分子)だと解明された。

免疫細胞は、抗原を認識すると活性化され増殖して攻撃を開始するが、がん細胞はこれを巧みにかわす機構を備えている。がん細胞表面には、PD-1と特異的に結合するPDL-1を発現しており、両者の結合が起こると、体内に抗原(がん細胞)が膨大にあっても免疫が応答しなくなる。ブレーキがかかっている状態で、いくらアクセルを入れても免疫応答は起こらない。

本庶研では小野薬品工業と共に、PD-1とPDL-1との結合を阻害し、免疫活性化抑制シグナルを阻害する抗 PD-1抗体(オプジーボ)を開発。オプジーボは、皮膚がんの一種、悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬として14年に世界で初めて日本で承認された。

免疫療法は、そのメカニズムからして幅広いがんに効く可能性があり、15年以降、非小細胞肺がん、腎細胞がん、血液がんの一種、頭頸部がん、胃がんと6種類のがん治療に適応が広がった。今年1月には、腎細胞がんで別の薬との併用療法が申請され、さらに、食道がん、肝細胞がん、小細胞肺がん、併用療法の非小細胞肺がんへの適応拡大を目指す。

残念ながら、承認されたがんのうち縮小効果を示すのは3割程度の患者である一方、活性化された免疫系が自己の組織を攻撃するために自己免疫疾患という副作用も報告されている。いったん効いた人は長期間効く傾向がある。どんな人に効くのか、いつまで効くのか……など、現状では正確に予測がつかず解明が待たれるが、がん免疫療法における大きな進歩であることは間違いない。

やはり免疫チェックポイント分子として、95年に米国のアリソン氏によりCTLA-4が発見されており、がん免疫療法は、米誌「Science」が選ぶ13年の「Breakthrough of the Year」に選ばれた。

世界中で、続々と免疫チェックポイント阻害薬の開発が進められている。日本では、抗CTLA-4抗体のヤーボイ(ブリストル・マイヤーズ)、抗PD-L1抗体ではキイトルーダ(MSD)とテセントリク(中外製薬)が発売されており、イミフィンジ(アストラゼネカ)も近く承認される見込みだ。