「生産性革命」が起こっても、結局、喜ぶのは富裕層だけだった

失業者は激増、格差の拡大は進む
中原 圭介 プロフィール

財政が危機的な状況に陥れば、すべての国民に対する行政サービスを大幅に削減するか、行政サービスの値上げをせざるをえません。それは何も市役所や町役場の窓口で行われるサービスにかぎらず、道路・橋・水道などのインフラの維持にも波及します。

全国にくまなく張り巡らされたインフラの現状維持は極めて難しく、補修するインフラと補修しないインフラの選別が進み、過疎の地域では暮らすことが困難になるところが多数出てきます。

警察や消防の分野の機能縮小も避けられず、治安・防災の機能低下は社会不安を増幅し、安全な国である日本のイメージが覆されるかもしれません。

これだけ負のスパイラルが進むわけですから、経済規模が縮むのはもとより、社会不安が増すのは不可避な情勢です。

 

生産性革命への疑問

しかしながらここにきて、生産性を大幅に引き上げることができれば、経済規模は保つことができるという主張が目につくようになってきました。

「IoT、ロボット、人工知能。今、世界中で「Society 5.0」に向かって、新たなイノベーションが次々と生まれています。この「生産性革命」への流れを先取りすることなくして、日本経済の未来はありません」

安倍首相は2018年1月の施政方針演説で高らかにこう述べていますが、要するに、生産性革命を実現すれば、日本の社会はこれからも持続可能だというわけです。

しかし、生産性を上げれば経済規模を保つことができ、税収も減らないというこの考え方は、あくまで2000年以前に通用したものであり、2000年以降のイノベーションの質が過去のケースとは異なる次元にあることを考えると、むしろ国民の生活水準の悪化という副作用をもたらす可能性のほうが高いのではないかと思われます。

たとえば、アメリカのゴールドマン・サックスの試算によれば、実店舗を展開する小売業が必要とする従業員数は売上高100万ドルあたり3.5人になりますが、ネット通販はわずか0.9人で済んでしまうということです。小売売上高に占める実店舗販売のシェアが1%下落すれば、小売業全体の雇用者数は13万人も減少するというのです。

私たちはこれらの試算を見て数字的な把握をするまでもなく、たとえアマゾンなどが配送センターで雇用を増やしたとしても、実店舗で失われる雇用のほうがあまりに大きいということは直感できるはずです。

経済的にいえば、アマゾンのような企業が増えれば増えるほど、経済の生産性は上がるので好ましいという解釈がされますが、それとは表裏一体で雇用が確実に減り続けていくという負の側面は見過ごされがちになっています。

より少ない雇用で莫大な利益を生む企業が次々と現れれば、富裕な投資家層は株価の上昇によって大いに喜ぶことになるでしょう。

しかしその一方で、世界的に失業から生活苦に陥る人々が増加の一途をたどり、格差の拡大が進むという事態も避けられなくなるでしょう。

時代遅れの今の経済学の教科書通りで考えていては、とんでもないしっぺ返しが待っていることを意識しておく必要があります。

拙書『日本の国難』においては、今後5年のスパンで考えた世界経済や日本経済の方向性だけでなく、10~20年後までを見据えた、日本の経済、雇用、企業、賃金がどのようになるのかについて説明しています。興味がございましたら、ぜひご覧いただければ幸甚です。