星野源、尾崎世界観…10〜20代に本を売るための文藝春秋の攻め方

あらゆる手段を駆使して
田中 裕士 プロフィール

今年は、文庫がシリーズ5作目となる『玉依姫』、単行本はシリーズのなかで描かれて来なかった知られざる恋の物語『八咫烏外伝 烏百花 蛍の章』が5月10日に同時発売となり、シリーズ累計発行部数は100万部を突破する。

また、ついに念願のコミカライズが決定した。6月中旬から講談社のWEB「コミックDAYS」での連載がスタートする。

今年もファンに喜んでいただけるよう各種の仕掛けを準備している。どんな売行きになるか楽しみな作品だ。

(C)松崎夏未「コミックDAYS」(講談社) 1

業界の厳しさばかりを口にするのではなく

今回は小説を中心にご説明したが、ベーシックインカムを説いた『隷属なき道』のような翻訳書、肩こりや腰痛などに効く『ゆるめる力 骨ストレッチ』のような健康実用、『てんきち母ちゃんの 朝10分、あるものだけで ほめられ弁当』のようなレシピ本と、対応すべきジャンルも増えて来て、常に工夫を迫られている。

また、主にベストセラーの書籍を中心にご紹介したが、初版が数千部の本、これから知名度を上げていっていただく著者の本を応援することも大事な仕事だ。

本は文庫本なら1000円未満、単行本なら2000円未満と「低価格」で、毎月続々と新刊が出る「多品種」で、かつ多くは短い期間で店頭から消えていく「高サイクル」の商品だ。

1台数百万円の自動車や、1本百数十円と安いが年間に数億本も売れる珈琲飲料のような大手メーカーの華々しいマーケティング事例には憧れるが、そのまま当てはめにくい。その代り、都度都度の立ち上げに工夫をこらす面白さがある。

ひょっとしたら、価値観の多様化からマス・マーケティングの終焉も語られる時代に、他業界にもご参考にしていただける部分があるのかも知れない。

 

こうして本の黒子のような役割をお話しすることで、少しは本の世界に違う角度の面白さを感じていただけたのではないだろうか。

実は時々、親しい大学教授の授業に招かれて出版プロモーションの実例を紹介することがある。

授業の後には、「本を見る目が変わった」「紹介された本を読みたくなった。急いでメモした」「学校の帰りにひさしぶりに本屋に寄ろうと思った」といった嬉しい感想を多く頂く。

またそうした機会に、学生の情報消費行動のめまぐるしい変化に触れて、こちらも刺激を受けることが多い。

出版関係者が業界の厳しさばかりを口にするのではなく、本の楽しさをあらゆる形で人々の生活環境のなかに発信し続けること。

これこそが、大学生にもそれ以外の方々にも、本を読んでいただく最良の道なのかも知れない。

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