星野源、尾崎世界観…10〜20代に本を売るための文藝春秋の攻め方

あらゆる手段を駆使して
田中 裕士 プロフィール

100万部超の人気シリーズ

さて、若者向けの施策を語るには、避けては通れない作品がある。阿部智里さんの八咫烏シリーズだ。

阿部さんは早稲田大学在学中の2012年に『烏に単は似合わない』で松本清張賞を受賞。現役大学生で最年少受賞として話題となったが、このシリーズが今年ついに100万部を超える人気シリーズに育っている。

私がプロモーション部長となった15年7月は文庫はシリーズ第2巻の『烏は主を選ばない』が、単行本はシリーズ第4巻の『空棺の烏』が発売になった直後だった。

和風ファンタジー小説の世界を描いた苗村さとみさんの装画が素晴らしく、これを動画に編集したら、ちょうど夏休みの間にアニメやファンタジー好きのファンに認知してもらえるのではないかと考えた。

その成果は想像を超えていて、Twitterジャパンの人が、「小説のTwitter広告でこんなにリツイートされるのは珍しい、いったい何が起きたのか?」とわざわざ弊社を訪ねて来たほどだ。好意的なコメントも多く見られた。

ただ、肝心の書籍の売上がこれによって増えたかというと確証がなかった。ネット広告にいくら投じたら分かりやすいインパクトのある数字に結びつくのか、これはいつも悩ましいところだ。

 

ところがこのとき、大事なデータを見落としていた。

各巻の週ごとの売行き(日販オープンネットワークWIN調べ)をグラフ化してみると、6月に文庫の第2巻が発売になると、それから1ヵ月後に、シリーズ1巻目が2巻目を上回る勢いで売れ始めたのだ。

まだ大きな動きではなかったが、ここでシリーズに新しいファン層がつき始めたのだ。動画の展開は、そうしたファンの拡散力を後押しするのに役立ったのだと思う。

翌2016年には文庫のシリーズ3作目『黄金の烏』が前作の約3倍、シリーズ5作目にあたる単行本『玉依姫』が前作の約5倍の週売れという破竹の勢いでスタートダッシュを切った。

その勢いに乗るべく、最新巻を織り込んだ動画を制作し各種SNSで展開。八咫烏シリーズの公式Twitterアカウントも作成し、フォロー&リツイートキャンペーンで盛り上げた。

担当編集者が発売時期はもちろんのこと、オフシーズンにも投稿を続けてファンとのエンゲージメントを大事にしている。

こうした甲斐あって、2017年の文庫『空棺の烏』、単行本『弥栄の烏』とも前年より週売れの部数を大きく伸ばしてスタートできた。

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