忘れられない「あるゲイの死」もしカミングアウトされたときは…?

一橋大学事件から何が変わったのか
砂川 秀樹 プロフィール

アウティング禁止は新しいルールか?

実は、私自身、「カミングアウトを受けたことを本人の許可なく誰にも言ってはいけない」と禁じられることに窮屈に感じる気持ちも全くわからないわけでもない。

例えば、私が、思いもよらない同僚からゲイだとカミングアウトを受けたとするならば、誰かに言ってしまいたくなる気持ちが生じるかもしれない。

特に、私と彼の両方を知っているゲイの友人がいたりすれば、なおさらそういう衝動にかられるだろうと思う。

しかし、決して本人に黙ってそうすることはない。

なぜなら、カミングアウトは、自分の性的指向を完全にオープンにしている人は別として、相手を慎重に選んだり、「この人には自分にとって大事な事柄を知って欲しい」という思いを持って伝えたりすることがほとんどだからだ。

私がそれを誰かに勝手に言うことは、その私への信頼と思いを踏みにじる行為になる。ゲイ同士の間でも、もちろんそうだ。

 

また、もちろん、ゲイであることを周りに知られることが、職場や学校などの中で否定的な結果をもたらす可能性もある。

私の友人で、職場で同性パートナーがいることをオープンにしている人が、そのことにより、あるときから来た上司から嫌がらせを受け、会社に相談し、結果自身が異動辞令を受けたという人もいる。

誰もが、「LGBTである」ということに対する価値観が人によって大きく異なること、それに対する態度も違うことを頭に置いておく必要があると思う。

伝えられた自分自身は否定的にも考えていないが、自分がその話を漏らす相手が、LGBTに対して激しい憎悪を持っていることはあり得る(仮に表には出さなくても、ネットなどで拡散するなどの方法をとる人もいる)。

自分自身が、「LGBTであることに否定的なイメージを持っていない」と感じているがゆえに、そのことをつい誰かに漏らしてしまったという人もいるので、要注意だ。

とはいえ、もし伝えられたことが深刻な話を含んで一人では抱えきれなかったり、相手のカミングアウトそのものを受け止めらなかったり、詳細な背景を伴って話す必要があるならば、電話を含めた相談機関を利用するのがいいと思う。

これは、これまでもアウティングを防ぐためのアドバイスとして語られてきたことである。

しかし、私は、さらに踏み込んで(議論があるかもしれないが)、その人がどこの人物であるか、どういう属性や特徴を持っているかという情報を落とし、具体的な会話内容を再現しない形でなら、周りの信頼置ける人(そして、その人を知らない人)に話すことは許されると考えている。

よく考えてみれば、LGBTに限らず外からはわからない属性によるマイノリティ性に関する情報は、そう扱われてきたはずだ。

社会で明らかにすると差別や偏見にさらされることのある精神疾患やHIV感染症などの内部障害、民族性など――。だから、本当は全く「新しいルール」ではない。

しかし、そんな中、性的指向や性自認について改めて注目され、「アウティング」として問題化されるようになったのは、そのことへの扱いがこれまで社会の中であまり考えて来られず、冗談や笑いのネタとして流通してくることが多かったからである。