「宇宙の始まり」を消し去ったホーキングの「すごい世界観」

人類の宇宙観を革新した「夢の競演」
竹内 薫 プロフィール

「光」に固執したペンローズ

話を宇宙論に戻すと、実在論者のペンローズは、目に見える「光」に固執し、これまたとんでもない宇宙論を発表した。

宇宙の始まりにおいては、質量をもつモノは存在せず、質量ゼロの光しかなかった。現在、宇宙は加速度的に膨張していて、モノがどんどん希薄になり、やがてはブラックホールだらけになるが、そのブラックホールもホーキング放射によって蒸発する。そのような未来においては、存在するのは光だけ。そして、モノが存在しないと、空間内で長さを測ることができなくなる。光だけでは、なんと、「角度」しか測定できないのである!

すると、宇宙の始まりのちっちゃな宇宙と、膨張して巨大になった宇宙とは、同じ「大きさ」といってもかまわなくなる。なぜなら、そもそも、光だけの宇宙には、長さという概念がないのだから。

かくして、ペンローズは、宇宙の始まりと終わりが「同じ」だという、とんでもない宇宙論へと到達し、ビッグバン直後の宇宙を観測すれば、そこに、「前の宇宙の痕跡」があるのではないかという大胆な予想をたてた。前の宇宙の知的生命体が、次の宇宙になんらかのメッセージを託したのではないかという、夢のある仮説には、大いに心を動かされる。

光のイメージphoto by iStock

はたして、宇宙の始まりは丸くて虚時間だったのか、それとも、最初と終わりが「光」に充たされ、輪廻転生する宇宙だったのか。

ホーキングとペンローズは、実証論と実在論という対極に位置する哲学をもっているが、ふたりの行き着いた先は、ともに「超SF」ともよべる、純粋数学と人間のイマジネーションが美しく融合した、夢の世界だった。

私はサイエンス作家として、ふたりの科学と思想を本にした経験があるが、それはいわば、天才が考えたことを追体験する試みであり、執筆中、実に楽しく心地よかった覚えがある。

人類に宇宙の夢を与えてくれたふたりに感謝。

ホーキング博士のご冥福を心からお祈り申し上げます。

ホーキング博士photo by gettyimages
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