「宇宙の始まり」を消し去ったホーキングの「すごい世界観」

人類の宇宙観を革新した「夢の競演」
竹内 薫 プロフィール

独自の「宇宙論」を展開したホーキング

実在論のペンローズと実証論のホーキングの「宇宙論」における共同作業はここでおしまいだ。この論文以降、ふたりは、極端に異なる宇宙論を展開し始める。

ホーキングは、「宇宙の始まりにも『芯』があった」という説をあっさりと捨て、「量子論を加味すると、宇宙の始まりはなくなり、時間も虚数になる」という「虚時間の宇宙論」を提唱した。時間が虚数になると、おそらく、通常の時計では時間を計ることができなくなるわけで、そもそも、「時間の経過」という概念すらなくなってしまう。だから、宇宙の始まりもなくなる。

「芯=特異点」というのは、時空においては「尖った点」みたいなイメージだ。パラソルが閉じているときは先っちょが尖っているのに、パラソルを開くと球面の一部になってしまって、全体が丸くなるから、芯=特異点が消える……そんな感じだ。

ほとんど意味不明な宇宙論だが、ホーキングが実証論者であることをお忘れなく。われわれはどうしても、数式に「意味」を見出そうとする。宇宙の始まりがないって、どういう意味? 創造主=神の出番はなくなったの? エトセトラ、エトセトラ。

だが、ホーキングにとっては、宇宙論に量子論をあてはめてみたら、時間が虚数になった、というだけの話。虚時間の宇宙の「痕跡」が現在の宇宙に残っていれば観測できるし、残っていなければ観測できない、ということにすぎない。

ちょっと話がズレるが、ホーキングは、アインシュタインの重力方程式に「ちょっぴり」量子力学を加味するとどうなるか、という計算をやってのけたという意味で、量子重力理論の先駆者だといえる。

当然のことながら、宇宙の始まりだけでなく、ブラックホールの境界線(=事象の地平線)も量子論風に考察し、「ブラックホールは完全に黒いわけではなく、ちょっぴり放射していて、実はグレーホールだった」という計算もしている。

これが有名なホーキング放射であり、ブラックホールがやがてはエネルギーを放射し切って蒸発するという、驚くべき予想へとつながる。

グレーホールのイメージphoto by iStock