習近平の「貿易に関する4つの約束」を世界が信用しないワケ

自由貿易を破壊するかも、という懸念が
津上 俊哉 プロフィール

「独り勝ち」は続けられない

もう1つの違和感は、「世界一」に復帰するまであと30年間、世界は「中国の独り勝ち」にずっと付き合ってくれる、と中国は思っているのか? ということだ。

そう聞けば、中国には中国の言い分があるかもしれない。「中国人が勤勉に努力して成功することがなぜ不公平と言われるのか!?」と。

30年前の日本人も、欧米の批判に対して、「質が良くて安い物を作って売ることのどこがいけないというのか!?」と言っていたものだ。

しかし、人間というもの、「私が貴方に勝つのは、私の方が貴方より優秀で勤勉だからだ」といくら諭されても納得はしない。理解とは願望だからである。だから「独り勝ち」は続かない。

麻雀に喩えれば、除け者にされて誰も一緒に遊んでくれなくなるし、スポーツに喩えれば独り勝ちがなくなるようにルールが改訂される。

 

中国の重商主義は「自由貿易体制」の終焉を早める

ルールの改訂は始まっているかもしれない。いまや自由貿易が崖っぷちに立っているからだ。

いまの欧米企業は、日本が席巻しかけた30年前ほど疲弊してはいない(今後中国がほんとうに席巻する勢いになれば別だが)。

しかし、ジョブ・ロスや貧富の格差によって、主権者たる国民、とくに民主政治体制の主人公である中産階級が疲弊した。そして、「グローバリゼーションも自由貿易もたくさんだ」と考えるようになってきた結果、戦後世界を主導してきた西側諸国が自由貿易理念を支持し続けることが難しくなっている。

これこそが21世紀世界の最大の問題だ。米国のトランプも、英国のブレグジットも、その他欧州のポピュリズムの跋扈も、みな問題の原因ではなく結果なのだ。

恐らくそこには、トマ・ピケティが『21世紀の資本』で描いたような、100年周期の大きな経済の波動が働いている。

だから「中国こそが諸悪の根源」のように言うナバロやバノンの批判は的を射たものとは言えない。言葉を換えれば、中国が重商主義を止めても、それで自由貿易が救える保証はない。

しかし、中国の「重商主義」が、自由貿易を揺るがす反動の助燃剤になっていることも、疑いがない。中国が重商主義を止めなければ自由貿易が終焉を迎える日は早まるだろう。

中国共産党には「戦略的機遇(チャンス)期」という考え方がある。21世紀の平和な国際環境や世界の自由貿易体制は、中国の持続的な発展のために不可欠な環境であり、その維持に努力せねばならないといった考え方である。

同時に、その戦略的機遇期が、いまや様々なリスクに晒されているという厳しい現状認識もしている。習近平も、自由貿易体制が揺らぎつつある現状を憂えたからこそ、「改革開放」を強調する演説をしたのだろう。

機会が与えられるなら(ないだろうが)、そんな習近平に聞いてみたいことが2つある。

1つは「戦略的機遇期」を大切にしたいなら、自由貿易をいよいよ崖っぷちに追い詰める「重商主義」を止める考えはないか? であり、もう1つは、それでも自由貿易体制が終焉を迎えたら、中国はどうするつもりか? だ。

筆者は次の機会には、自由貿易体制が壊れていくと、世界はどう変貌するのか、未来小説風に論じてみるつもりだ。