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習近平の「貿易に関する4つの約束」を世界が信用しないワケ

自由貿易を破壊するかも、という懸念が

米中摩擦は緩和したのか

中国の習近平主席は、4月10日の海南島で開催した「ボアオ・アジアフォーラム」開幕式で「中国の開放の扉は決して閉じることはない」という演説を行い、以下の4点を発表した。

1) 銀行・証券・保険など金融業及び自動車製造業等の外資出資比率制限を緩和
2) 「市場監督管理総局」を設立し、競争促進、企業財産権保護など投資環境を改善
3) 外資企業の知的財産権保護を強化
4) 自発的な輸入拡大

演説後にトランプ米大統領が、「たいへん感謝する、我々は一緒に大きな前進を遂げるだろう」とツイートしたことも手伝って、この演説は「米中貿易摩擦の緩和」の視点から捉えられている。

その要素なくしてこの演説はなかったのは事実だ。だが、それだけと見るのも誤りだ。

習近平政権が3月末に開催した「中央全面改革深化委員会」(注1)で、「国際マクロ経済政策の協調体制を構築・参画し、国際経済ガバナンスのメカニズムを改善していくことに関する意見」という文書が採択された、と報道された。

 

題名だけでは意味不明だが、中国メディアは、「マクロの国際経済体制は、トランプの出現、米国の一国主義追求に見られるようにおかしくなっている。中国は欧州、日本、韓国など共通利益を有する諸国と連携してこの流れを食い止めなければならない。G7やG20はそのための枠組みたりえないので、中国がもっと役割を果たすべきであり、『一帯一路』がそのための出発点たり得るのではないか」といった趣旨の関係者インタビューを載せていた。

注1)1期目習近平政権では「中央全面改革深化領導小組」と呼ばれた組織が去る3月の行政機構改革で「中央全面改革深化委員会」(主任:習近平)に改組された。

米国への対抗策も併行して準備

トランプ政権が強硬手段に訴える場合に備えて、各国と共同戦線を組んで対抗する……つまり習近平は妥協を匂わせて下手に出るだけではなく「和・戦両様」に構えようとしている訳だ。

たしかに、演説には「和平と発展を基調とする今の世界にあって、冷戦思考やゼロサムゲーム型の発想は時代遅れであり、夜郎自大で唯我独尊的な態度は四方八方に頭をぶつけるだけだ」と、名指しこそ避けたが、聞く者すべてにトランプを思い浮かべさせる辛辣な表現があった。

また、「中国は誰も威嚇したりしない。現行国際体系を覆そうなどとは考えてもいないし、勢力圏を築く考えもない。中国は一貫して世界平和の建設者、世界発展の貢献者、国際秩序の擁護者であり続ける」と主張。

そのうえで、「グローバリゼーションは変えられない時代の流れだ、中国は対外開放の国策を堅持する、中国開放の大門は決して閉ざされることはなく、いよいよ大きく開かれる」とも語っている。レトリック全開だ。

習近平による同じ話は、1年あまり前2017年1月のダボス会議(世界経済フォーラム)でも聞いた。筆者はこれを「強力な敵(かつての日本軍国主義)に立ち向かうためには、地主や資本家など立場の違う勢力とも手を組む」という、中国共産党伝来の「統一戦線」発想だと評したことがある。

習近平の雄弁を信じきれない西側

しかし、先進各国は、このボアオの習近平演説を浮かない顔で聞いたのではないか。そう感じる理由は2つある。

1つは中国の「国のかたち」に覚える違和感だ。

「社会主義現代化強国」を目指すとした昨年10月の共産党大会と、国家主席、副主席の任期制限を撤廃した3月の中国憲法改正の2つの出来事によって、違和感はさらに増大した。

「改革開放で経済成長が進めば、やがて中国も自由と人権を尊重する西側の政治価値観に接近してくるはず……と考えたのは幻想だった」という論調が欧米メディアで格段に増えた。

もう1つは、習近平が唱える「改革開放」と、我々が奉ずる市場経済理念に立脚した「自由貿易」は、実は似て非なるものではないかという疑念だ。

改めて習近平の演説を読み返してみると、「自由貿易を守る」とは、どこにも書いてないのだ。演説で披露した「改革開放」も「輸入拡大」も、すべては政府がさじ加減で決める措置だ。

中国はやはり市場経済理念を共有していないのではないか。

最近目立つ中国の「重商主義」的傾向は、そんな疑念をさらに強める。

特定産業が到達すべき目標を国家が制定して各種の政策ツールを動員する「ターゲティング(標的)型産業政策」に手法として違和感があるだけでない。中国科学技術の目覚ましい進歩により、電気自動車もAIも中国に席巻されてしまうのではないかという不安が西側で高まっている。

「ニューヨーク・タイムズ」も米中貿易戦争に関する4月12日の記事の中で、「製造強国」を目指す中国が3年前に発表した「中国製造2025」計画について、米国政府が、不安・問題視していることを報じた。