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人工知能が人類から「思いもよらないもの」を奪ってしまう可能性

脳科学者が本気で伝える危機感
黒川 伊保子 プロフィール

失敗は、人生を拓くキーファクター

脳は、体験によって進化している。失敗すれば、失敗に使われた脳の関連回路に電気信号が流れにくくなり、失敗する前より、失敗しにくい脳に変わるのだ。

逆に成功すれば、成功に使われた関連回路に電気信号が流れやすくなる。中でも、さまざまなかたちの成功に使われる本質的な回路は、使われる回数が多いので、特に優先順位が高くなる。これこそが、物事の本質を見抜く洞察力の回路に他ならない。超一流のプロたちが持つ力だ。彼らは、この回路を使って、「勝ち手」を瞬時に見抜く。この回路は、成功体験を積み重ねることによって作られる。

しかしながら、成功体験を劇的に増やし、大切な回路に何度も信号を流して「本質の回路」に昇華させるためには、その前に、十分に、無駄な回路を切り捨てておく必要がある。

その無駄な回路を捨てる、成功への基本エクササイズこそが「失敗」なのだ。

この世のどんな失敗も、脳の成長のためにある。失敗の数が多いほど、そして、失敗の「取り返しのつかなさ」が深刻なほど、脳は研ぎ澄まされた直感を手にし、その脳の持ち主は輝かしいプロになり、しなやかな大人になる。したがって、「失敗」は、恐れる必要がない

昔からよく「若い時の苦労は買ってでもしろ」とか「失敗は成功の源」などと言うが、あれは、単なる慰めでも、結果論でもない。脳科学上、非常に明確な、脳の成長のための真実なのだ。

 

人生のネガティブは、本当にネガティブなのか

AIの時代に、人類に必要な教養がある。

それは、AIによって回避できる「人生のネガティブ」が、本当に回避していいことなのかを顧みるという姿勢だ。

男女はわかりあえたほうがいい。失敗はしないほうがいい。いつまでも若く見えたほうがいい。もの忘れはしないほうがいい、ボケないほうがいい。

―――本当だろうか。

男女は、人生に必要な感性を真っ二つに分けて搭載したペアの装置だ。感性が真逆で相容れないので、互いにイラつく。しかし、イラつくことによって、互いの生存可能性を最大限に上げているのである。

真逆の答を出す可能性のある並列プログラムには、競合干渉が起こる。同時に、片方が「右」、もう片方が「左」と回答したら、そのプログラムを搭載した系は動きが取れなくなってしまう。

このため、人類の脳は、真逆の答を出す並列プログラムを、一つの脳に搭載しないで、男女の脳に分けたのである。さらに、互いにイラつくように、設計されている。真逆の答が出たとき、どちらも、「自分が正しくて、相手が愚かだ」と信じていたほうが、競合干渉が最短ですむからだ。つまり、イラつき合ってけんかして、意志の強いほうが勝つ、という解消方法が最善なのだ。ぐずぐずと譲り合っていては危ない。

つまり、男女の脳は、感性真逆の相手に惚れて、「どうして、そうなの?」「なんでかなぁ」と言い合いながら、暮らすようにできているのだ。したがって、「価値観の同じ人を頭(大脳左半球)で探す」と、運命の恋に出会えないのである。

結局、数ある「痛い思い」の先にしか、運命の恋なんかない。ほらね、AIに女ごころの相談なんかしたら、やっぱり危ないのである。

失敗もしかり、老いもしかり。人生に無駄なことはいっさいない。

人類はここらで、「人生のネガティブ」を、もう一度見直さなければならない。AIに「人間性」や「人生の奇跡」を奪われないために。

「思い通りにならないことのすべては、脳を成長させる偉大なエクササイズである」そう言い続けてきた黒川さん。人工知能の良さを知り尽くしているからこそ、「定型の現場業務を引き受け、失敗を最小限に抑える」AIによって「人間に学習機会の喪失が起こる」ことを憂いている。若い人たちに「失敗を恐れるな、それを脳の糧にしろ」と説くばかりでなく、経営者や管理職など、若者を育てる大人たちに「若者たちの失敗」が経営の糧になることも具体的な例を挙げて説く一冊である。