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人工知能が人類から「思いもよらないもの」を奪ってしまう可能性

脳科学者が本気で伝える危機感
黒川 伊保子 プロフィール

この3つ、境界線が難しいが、小説や映画の中の執事たちは、ここを心得ている。パーティに着ていくディナージャケットを完璧に整えるが、女性問題に首を突っ込んだりしない。

ところで、命、暮らし、人生は、英語ではすべてLife。私は、このAI開発の指針をすっきりと英訳することができない。もしかすると、AIの身の程を心得させることができるのは、この三つをすっきりと表現できることばの国の人たちなのじゃないだろうか。

このことは、人類とAIの幸せな共存の鍵になり、ひいては、AI普及の鍵にもなる。AI開発の予算規模が中国の20分の一ともいわれ、明らかに世界に後塵を拝している我が国だが、もしかすると、主導権を握る場所があるのかもしれない。

 

AIは、人の脳の学習機会を奪う

AIに、人生を触らせない。その心得が必要になるのは、女性問題だけじゃない。

AIは、「あらかじめタスクをパターン化して学習し、人に寄り添うパートナー」である。
共に働く人が未熟ならば師となって導き、共に働く人が熟練者ならば、その失敗を未然に防いでくれる。AIだけで事足りる定型のタスクは、どんどん〝人いらず〟になっていく。

命がけの過酷なビジネス現場においては、この導入は、「人類の心待ち」案件といっても過言ではない。極寒や酷暑の中で、危険と隣り合わせに働く人は、21世紀の今でもたくさんいる。四六時中、気を抜けない現場にいて疲弊していく人もいる。AIの開発や導入を止めよと言うつもりは毛頭ない。

2016年に撮影されたチェルノブイリ。原発事故から20年以上経った今もこういう状況だ。こういう場所でこそAIの活躍は必要と言えるだろう Photo by iStock

しかし、ちょっと待って。「定型のタスクに従事し、身を粉にして東奔西走して、失敗に泣く」のは若い人たちの脳に不可欠なイベントなのである。

28歳までの脳は、著しい入力装置。世の中のありようを脳に叩き込んで、この世の真実を知る礎を作る、人生の第一ブロックだ。

この時期、脳は単純記憶力の最盛期。情報を素早く仕入れて、比較的長くキープできる能力を使って、「先達の経験パターン」を繰り返し学習し、世界観を構築していく。まさに、AIのディープラーニングと同じ。

その後、7年ほど、脳は失敗によって、センスを研ぎ澄ましていく。つまり、35歳までは、繰り返しと失敗が、脳の進化に不可欠なのである。

AIは、ここを代替わりして、人の「脳の学習機会」を奪ってしまう