中国系企業は日本の優秀なソフトウエア技術者のヘッドハントを強化しており、30代でも年収3000万~4000万円を提示することがあるという。
一昔前、日本の造船・電機メーカーの技術者が韓国企業に引き抜かれることが話題になったが、それとは次元が違う。
当時は、肩たたきにあった技術者が海外に活路を見出すといったイメージだったが、現状の引き抜きは現役でトップ級の技術者を狙ってきている。
国内でもトヨタグループでさえ「仁義なき人材争奪戦」を展開するほど目立ってきた。
「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」
「ネットやスマホの会社のエンジニアと、もっといいクルマをつくりたい」
トヨタは昨年、こんな求人広告を東京と神奈川の郊外を結ぶJR南武線の沿線に貼り出した。このエリアには東芝やNEC、富士通といった電機メーカーの拠点が多く集まる。
こうした企業のソフトウエアの開発者を中途採用しようとしている。さらにトヨタは3月2日、自動運転の開発を担う新会社「TRI-AD」を都内に設立すると発表。700人を新規で採用する予定だ。
デンソーも有馬浩二社長の肝煎りで「スキルシフト」と呼ばれるプロジェクトを進行している。
「研究開発を長期的先行開発、中期的先行開発、量産に近い短期的開発に色分けし、長期的先行開発を強化。全体の研究開発費の10%を投入していたのを最大で40%にまで高めていく」(関係者)
人材もこうした分野に重点的に配置していく方針だ。
デンソーと同じトヨタ系の有力部品メーカー、アイシン精機でも、開発部門の人的リソース配分を、全社的な課題のなかでも優先度が最上位にある「Sランク」に位置付けた。
そして将来的に有望な分野の人材配置は、若手の育成と中途採用の強化で対応する一方で、成長が期待できない分野には定年に近いようなエンジニアを配置転換していく。
ただ、実際には人材の再配置は簡単にはできない。技術が日進月歩で進化する中で、自分の専門性が陳腐化するスピードが速まっているからだ。
「本来であれば、大学院で学び直すくらいの頭脳のリセットが必要。そうしないと流れに付いていけないが、経営陣にそこまでの危機感がない」(ホンダ中堅技術者)