AI・自動運転の発達で「全国230万人の技術者」が消える日

モノ作りの仕組みが根本から変わる
井上 久男 プロフィール

エンジン技術者の悲劇

トヨタだけに限らず、ホンダも2030年までに新車販売に占める電動車の比率を65%にまで高める計画。日産自動車は3月23日、'22年度までに電動車の販売を年間100万台にすると発表したばかりで、'25年度には日本と欧州では新車に占める電動化率が50%になると見込んでいる。

では、国内のエンジンの技術者はこれからどうなっていくのだろうか。

「海外に活路を見出すしかない。アフリカや東南アジアなどの新興国市場では商用車向けにエンジン車は必要。エンジンの開発拠点は徐々に海外にシフトしていく」(大手自動車メーカー元役員)

実際、トヨタは完全子会社化したダイハツ工業を主体に「新興国小型車カンパニー」を'17年に設立。同カンパニー傘下の「トヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング」をタイに発足させた。

そこにエンジン開発を移すのではないかと見られている。いずれエンジン技術者は日本では食えず、アジアに職を求める時代になるのかもしれない。

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さらに切実なのは、下請け企業だ。マフラーや燃料タンクなどエンジン車に必要な部品を造っている企業は死活問題である。

国内最大の自動車部品メーカー、デンソーは今年4月から、ディーゼルシステム事業部とガソリンシステム事業部を統合させた。「脱エンジン」を契機に系列企業の再編がいよいよ始まると見る向きもある。

「エンジン関連の部品企業では自動車以外に航空機向けなどの新規事業の開拓に取り組み始めた」(トヨタ系部品メーカー幹部)というが、新規事業だけで雇用は簡単には吸収できない。

エンジン関連で再編が始まっている一方で、AIなど自動運転に関するソフトウエア開発の人材はグローバルで争奪戦になっている。これにはクルマの内部構造の変化も影響している。

ソフトウエアの量はプログラミング言語で記述された文字列の行数で示されるが、ボーイングの最新鋭機「787」が約800万行なのに対して、知能化・電動化が進むクルマは軽く1000万行を超え、近い将来は億単位になると見られている。

つまり、モノ作りの仕組みが根本から変わる。これまでの技術者はモノを組み立てる職人的世界だったのが、いかにコンピューターをうまく使ってプログラミングできるかに変わるのだ。

 

「年収700万円程度だった自分に1000万円の提示があった時には驚きました」

こう語るのは、有名自動車メーカーから国内のIT企業に転職した30代半ばのAさんだ。最近、自動運転の開発に力を入れるIT企業に転職したばかりだ。

Aさんも大学院を出て自動車会社の開発部門に10年近く勤務してソフトウエアの開発に取り組んできた。専門は自動運転の開発には欠かせない画像処理だ。AIを使う「ディープラーニング(深層学習)」の技術にも詳しい。

「転職紹介会社に登録した際に、中国の大手通信メーカーの華為からは年収2000万円の提示を受けましたが、中国語も英語も得意でないので断りました。

私の周囲にいた先端分野を開発している人材も、高給でグーグルやサムスンなどに引き抜かれました。日本は春闘で一律の賃上げで騒いでいますが、何か時代錯誤の気がします」

専門性が陳腐化していく

Aさんは、会社がコスト削減のために自前での開発を止めて、安易な外部調達に切り替えたことに反発して有名自動車メーカーを去った。