保育士の夢を諦めかけた貧困女生徒を救った、あるプロジェクト

県立「再チャレンジ高校」の物語——②
黒川 祥子 プロフィール

働いてるの、私だけ。だから私はがんばるんだ

この保育プロジェクトは、今も続いている重要な制度だ。川上はつくづく思う。青少年育成課が支援を申し出て、たまたま保育課と話した中から生まれた、まさに奇跡のコラボだったわけだが、保育士不足の対策にもなり、家庭に困難を抱えた子の支援にもいいという、非常にハイブリッドなプロジェクトになっているではないか。

「これは、保育士になりたい子にとっての、まさに希望の場所だ」

現在の課題は、保育士の国家試験に一人でも合格すること。いまだ誰も資格を取っていないというのは、支援の手をさしのべてくれたこども青少年局に申し訳ない。

しかし実際には、保育士の国家試験はかなり難しく、槙尾高校を出た子がそう簡単に合格できるレベルではないというのも厳然たる事実だった。

 

岡田のクラスだった小島美咲もチャレンジしたが、全科目落ちたことで意気消沈し、保育士の夢を諦め、一旦は別の仕事に就いた。

しかし、やっぱり違うとハローワークで見つけた、病院内保育所の保育補助という仕事の面接を受け、正社員として採用された。槙尾にやってきた美咲は、まんざらでもない笑顔で岡田に言った。

「岡田先生、資格があった方が給料は高くなるし、病院からも早く資格取れって言われているから、これからがんばって受けるね」

岡田は心から思う。

「あのプロジェクトで、小島美咲は人生が変わった。正社員になったということはずっと、保育という仕事を通し、子どもと関わっていけるということ。5年かかったけど、小島美咲は自分の夢をちゃんと叶えた」

川上が何度も声をかけたのは、槙尾でもピカイチの成績だった鈴木春奈だ。

「おまえ、国家試験、受かれよ」

「先生、ごめん。失敗しました」

「そっか、まあ、来年もあるからね」

「いえ、先生、3科目しか受かりませんでした」

「え? 春奈、おまえ、3つも受かったの?」

保育士受験は1科目でも受かれば3年の猶予が与えられ、3年のうちに「保育原理」「社会福祉」など、全8科目の筆記試験に合格すればいい。

実は進路指導の際、川上は春奈に奨学金制度を利用しての短大進学を勧めた経緯がある。この子なら大丈夫だと思ったからだ。しかし春奈は頑として断った。

「先生、奨学金だけは借りたくない。お兄ちゃんが借りて専門に行ったけど、お父さんが使い込んでて、学費納入時にものすごいバトルになってる。あんな思い、あたしはしたくない。だから、この保育プロジェクトに入ってがんばる」

2年間のプロジェクトを終えた後、春奈は特別に正規のアルバイトとして雇用された。雇った保育園の園長は川上に説明した。

「川上先生、資格がなくてもこれだけ仕事ができるのだから、正規のアルバイトにします。園長の私が春奈ちゃんの面倒を見ますから」

今、春奈の家で働いているのは彼女だけだ。

「先生、家に帰っても、みんな寝てるんだよ。働いてるの、私だけ。お兄ちゃんもフリーターになっちゃって、だから私はがんばるんだ」

※ 生徒のプライバシー保護のため、生徒(卒業生)、教員、学校名、地名は原則として仮名とした。特定を避けるために一部の登場人物には話の筋を違えぬ範囲内で最低限の脚色も行っているが、ほぼすべて事実に基づいている。なお、記事掲載にあたり、書籍の本文に一部、加筆修正を行った。