保育士の夢を諦めかけた貧困女生徒を救った、あるプロジェクト

県立「再チャレンジ高校」の物語——②
黒川 祥子 プロフィール

生徒が変わる瞬間

一方、美咲と同じ年に保育プロジェクトを使った、もう一人の山下智花は、美咲ほど順調には進まなかった。「仕事ができない」と園から連絡が入り、川上は何度も園に面接に行った。仕事中に寝てしまうのだが、それには理由があった。彼女には幼い弟、妹が大勢いるために夜間も働くダブルワークを余儀なくされていたのである。

「智花さあ、大変なのはわかるけど、せっかく与えられたチャンスなんだよ。これじゃ、ダメだろう」

「川上先生、ごめんなさい」

智花はさめざめと泣く。1年目はこの繰り返しだったが、次の園では見違えるほどになった。このプロジェクトでは年に2回、川上が保育園に面接に行くことになっているが、9月、面接に行った川上の前に現れたのは、もはや別人だった。

あれは智花だよな? 満面の笑みでこっちへ向かってくる。槙尾では、一度も見たことがないような晴れやかな笑顔で。ああ、またそうだ。この笑顔を見たのはオレだけだ。

川上は園長と話した。

「学校では遅刻も休みも多くて、卒業ギリギリだったんですよ」

「ええー? 智花ちゃん、遅刻も休みもないですよ。他の先生の指示もしっかり守るし、仕事もできるし、とてもいい子ですよ。先生たちがお休みを取れるのは、智花ちゃんがいるからですよ。全部の穴を埋めてくれるんです」

しばらく仕事ぶりを見ていたが、保護者からの電話対応は保育士そのものだった。

「あの山下智花が、こうなっちゃうんだ。いやあ、すごい。このプロジェクトはいけるな」

川上は目を開かれた思いだった。

 

学習って何だろう。専門学校や短大での座学もいいが、最初から丁稚奉公のように、見よう見まねで仕事を覚えていくのも悪くない。現に、彼女たちはどんどん仕事を吸収して変わっていっているではないか。

オレは何度、生徒が変わる瞬間に立ち会ったことだろう。どの子もみんな家庭に課題があり、在学中はだらしないと言われてきた子どもたちだ。なのに……。

山下智花のこの言葉で、川上はすべてが腑に落ちた。

「先生、これは好きな仕事だから。好きなことはがんばれる。いくらでもがんばれる。あたし、今、がんばっているのが楽しい」

2年間、フルで働き、保育士の受験資格を得た智花だが、受験はしないという。

「川上先生、智花、勉強がしたくなったから、短大か専門をAO入試(試験ではなく、大学が求める学生像に合致するかどうかで選抜を行う)で受験する。どこか、保育士の資格が取れるところに入るよ。1年分ぐらい貯めたから学費は大丈夫だし、やっぱり、勉強しないとダメだと思った」

「いやー、智花。おまえから勉強したいって聞くとは思わなかったよ」

なんだよ、この子たち。槙尾に来ているのだから、できれば勉強はしたくないはずだろ。それが自ら進んで進学して勉強すると言う。このプロジェクトがなければ、夢どころか人生も投げやりになっていた子たちだ。これだよ、この社会にもっと、資格取得の多様なルートがあっていい。