保育士の夢を諦めかけた貧困女生徒を救った、あるプロジェクト

県立「再チャレンジ高校」の物語——②
黒川 祥子 プロフィール

「希望」を見つけた

早速、同僚教師の岡田玲子が保育プロジェクトの噂を聞きつけ、自分のクラスの小島美咲を連れてきた。美咲は面談で、岡田に吐き捨てるようにこう言っていた。

「先生、就職でいいよ。何でもいいから」

「何でもいいって、美咲、そう投げやりにならないで」

「ほんとは保育士になりたいけど、うち、貧しいから、そんなの、全然、無理だから。弟もまだ、すごく小さいし。あーあ、あたし、なんか、もういいや。フリーターでいい。就職もしたくない」

親から専門学校に行かせる金がないと言われたばかりで、学校生活も乱れがちになっていた。この先の人生、もう何もないとばかりに、学校も休むことが多くなっていた。

川上は美咲を、受け入れ先の保育園に連れて行った。夏休み中の5日間、フルタイムで働くのだ。保育園という職場に初めて立った美咲を、そしてその日に起きたことを——川上は今でも忘れない。

小島美咲はまっすぐに前を向いて、園長先生の話を聞いていた。その時の真剣な表情といい、ぴしっと引き締まった雰囲気といい、槙尾高では誰も見たことがない、小島美咲の姿がそこにあった。頬が紅潮して、目がキラキラと輝いていた。

これが、あの小島美咲なのか。身体中に震えが走った。

ああ……オレ、この仕事やってきて、こういう瞬間が一番好きだ。生徒が変わっていく瞬間に立ち会える──槙尾高の誰も見たことがない美咲にオレは今、立ち会っている。

川上は瞬間、確信した。小島美咲は今、「希望」を見つけたのだと。生徒にとって、希望とは何と大事なものなのか。そうだ、生徒がよく言っていたではないか。

「先生、相談はもういい。何も変わらない。何か、具体的なものが見たいよ」

これなんだ、美咲は今、その具体的なものの前にいる。具体的なものを見せてあげた時に、生徒はこれほど大きく変わるのか。

小島美咲は4月から、保育園の「先生」になった。園で一番若い「先生」はあっという間に人気者となり、職員からも子どもからも保護者からも信頼を得た。

 

園長が川上に太鼓判を押す。

「川上先生、子どもたちにとっても、若い先生ってすごくいいんですよ。美咲ちゃんを見ていてつくづく思います。美咲ちゃんのこと、本当に頼りにしてるんですよ。いてもらわないと困るんです」

なんなんだ、これは。正直、槙尾に進学するのが精一杯だった生徒だ。学力的にはどうしても低い。学校も休みがちで、自暴自棄にもなっていた。それが希望する仕事に就いて、マンツーマンで仕事を教えてもらった結果、たった1年で使いものになっている。

このプロジェクトは1年で別の保育園に移る決まりがあるが、移った先でも、美咲はあっという間にアイドルになった。