シリア内戦は「アメリカの攻撃」でむしろ悪化したかもしれない

当事者の市民は置き去りにされたままだ
末近 浩太 プロフィール

イスラエルの安全保障

米国が化学兵器にこだわった理由はもう1つある。

同盟国のイスラエルである。大量破壊兵器の一種である化学兵器がシリア国内で使用され続けることは、その主体が誰であれ、イスラエルの安全保障上の脅威となる。

「誰であれ」というのは、アサド政権に関わらず、シリア国内で活動しているあらゆる勢力が「反イスラエル」の傾向を持っているからである。

そのため、米国が今回の軍事行動で本当に「化学兵器の研究開発施設」や「貯蔵施設」をターゲットにしたのだとすれば、その破壊はイスラエルの安全保障に資するものとなる。事実、イスラエルは今回の米国の判断への支持を表明した。

アサド政権が「内戦」で勝利を収めつつあるとすれば、それは、同盟国のロシア、そして、イランの勝利でもある。イスラエルが危惧するのは、そのイランがシリア領内で大量破壊兵器を手にすることである。

イスラエルは、かねてから自国を敵視してきたイラン――核開発の疑惑が向けられてきた――のシリア領内での勢力拡大に神経を尖らせてきた。

 

4月9日のイスラエル国防軍によるものと見られたシリア領内の空軍基地への空爆では、イラン人兵士7名の死亡が伝えられている(イスラエルは、この軍事行動への関与について肯定も否定もしていない)。

ただし、イスラエルとしては、アサド政権の崩壊を招くような軍事行動を歓迎していない。

警戒すべきはあくまでもイランと大量破壊兵器であり、アサド政権やロシアに代わってISなどのジハード主義者の伸張を招いてしまっては身も蓋もないからである。

イスラエルもまた米国と同様に、シリア「内戦」においてジレンマを抱えているのである。

〔PHOTO〕gettyimages

米ロの大規模衝突はあるのか?

結局のところ、米国による今回の軍事行動は功を奏したのだろうか。

米国は、英仏両国を抱き込むことで、化学兵器使用の禁止という国際規範の旗振り役としてのイメージの向上には相応の成功を収めたと言えるかもしれない。

そして、それは、翻って、アサド政権とそれを支援するロシアやイランの国際社会における地位を揺さぶる可能性を有している。

しかし、それによって、シリア「内戦」、さらにはシリアの人びとの今後に何らかの光が差すことになったかと言えば、そうではないだろう。

結局のところ、冒頭で述べたように、米国には「内戦」の収束やその後の国家再建を引き受ける意思はなく、「ロシア頼み」が既定路線となっているからである。

むしろ、今回の軍事行動は、シリア「内戦」をいっそう長引かせ、シリアの人びとをさらに苦しめるきっかけになっただけなのかもしれない。

それが、ロシアの動きに「一定の」歯止めをかける一方で、米ロ両国間の協調の営みを停滞させることにつながるからである。

つまり、米ロの政治的な対立の結果として、それぞれを支持する諸国や同盟国のあいだの不和をいっそう固定化し、国際社会が一丸となってシリア「内戦」の平和的解決に取り組むための機会や気運を損ねることになるのではないだろうか。

そもそも、「内戦」が泥沼化した背景には、米ロの対立と国際社会の足並みの乱れがあった。

大国どうしの政治的・軍事的な駆け引きの裏で、本来の当事者であるシリアの人びとは、今まだ置き去りにされたままなのである。