2018.04.20

母が自殺…天涯孤独の男子生徒を教師全員で支えた、とある学校の物語

県立「再チャレンジ高校」の物語——①
黒川 祥子 プロフィール

「これからは、いいことがある気がします」

3年に進級した陸は、山本のクラスになった。引き続き持ちたいという、担任である山本の強い希望だった。陸は何かあると、山本のところに来ていろいろな話をした。

「先生、昨日、施設の人に『協調性がない』って言われた。協調性って何? あのさぁ、昨日、施設で料理を作るみたいなのがあってさ……」

前の日に施設であった出来事を、陸は脈絡なく、とりとめもなく話し出す。一とおりすべて山本に話すとすっきりするのか、陸は帰っていく。こうして欠席をすることもなく、陸は槙尾高に通い続けた。

脈絡もない、とりとめのない話は、家庭内の会話そのものだ。無駄話でもしょうもない話でもいい。そんな話が自然とできる場が多分、人間には必要だ。母を亡くした陸には、気負いなく思ったまま話せる人がちゃんといた。それが担任の山本だった。

 

学校全体で陸を支え、陸は何とか無事に卒業した。卒業後は、介護職の正規職員として働くことが決まっていた。川田陸はこう言い残して、槙尾高から旅立った。

「これからは、人生、いいことがあるような気がします」

20歳まで入所可能な施設だったが、陸はほどなく自分で稼いだ金でアパートを借りて、施設を出た。自立する力が、陸にちゃんと備わっていた証だった。

母を自殺という残酷な形で亡くし、天涯孤独の身となった川田陸を支えるということを通し、槙尾の教員たちは多くのことを学んだ。校長の吉岡はつくづく思う。

「全員が彼を心配して、どうやって支えるかを、あの事件を通して教員たちは学習した。どういう動き方をすればいいのかを。解決まで全員が協力しあって、知恵を出しあっていく。

場当たりという言葉があるが、重要なのは場に当たって逃げないことだ。その場その場で的確に判断し、どうつないでいくか。事件を経験すればするほど、力量が高まるってことをみんなが知ったんだ」

※ 生徒のプライバシー保護のため、生徒(卒業生)、教員、学校名、地名は原則として仮名とした。特定を避けるために一部の登場人物には話の筋を違えぬ範囲内で最低限の脚色も行っているが、ほぼすべて事実に基づいている。なお、本記事の掲載にあたり、書籍の本文に一部、加筆修正を行った。

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