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こんな銀行見たことない…!同業者も驚いた「斬新な支店」の秘密

振込用紙への記入もハンコも不要
銀行なのに振り込みや届け出変更の際に私たちが記入する用紙がない。銀行なのに印鑑を朱肉につけて押印しなくてもいい。ペーパーレスだから書き損じることもないし、訂正印を押す必要もなくて、ストレスフリー。伝統的な「銀行らしさ」とは無縁の支店が、東京・中野坂上にあるという。同業者も驚くこの斬新な店舗を、『銀行員はどう生きるか』の著者・浪川攻氏が訪ねてみると――。

銀行っぽくない銀行

銀行店舗の特徴は一目瞭然である。誰でも一度ぐらいは銀行の店舗を訪れたことがあるだろうから、おわかりいただけると思うが、一言でいえば「没個性」だ。それはあたかも、「国が定めた規格に基づいているのか?」と思ってしまうほどに、どの店舗も内部は似通っている。

どこに行っても、広い店内スペースをほぼ二分するかのように、カウンターが一線で並んでいて、その手前には来店客が順番待ちをする顧客フロアがあり、決して座り心地がいいわけではないソファが置かれている。カウンターの後方は、銀行員たちが机を並べて事務処理するスペースだ。

顧客フロアに設置されたデスクの上には、預金の預け入れ・引き出し、振り込み等々、用件別の用紙が束で立てかけられていて、来店客は自分の用事に該当する用紙に口座番号、氏名、金額などを記入し、届け出印の欄に押印する。

あとは、専用機が発行する受付順番が書かれている紙を受け取って、ソファに座り自分の順番を待ち続ける。

カウンターの上に掲げられた画面に自分の番号が表示されれば、その窓口に赴いて預金通帳や必要事項を記入した所定用紙を渡す。すると、また、違った数字が記されたカードを渡されて、ソファに戻って待たされる。その間、手持無沙汰なのでソファ近くに置かれた雑誌などをパラパラとめくるしかない。

カウンターで渡した通帳や所定用紙は、カウンターの後方で作業している大勢の行員たちのほうに回されて、事務処理されていく。ときに小声でヒソヒソと話し合ったりしているが、総じて笑顔は乏しい。もちろん、顧客フロアで順番待ちしている来店客も時間が経つにつれて退屈し、なかにはイライラしている人もいる。

まあ、銀行の店舗内といえば、総じてこんな空間であり、風景である。役所や病院の受付コーナーと同じような世界だ。

ところが2017年秋以降、そんな素っ気ない銀行店舗を巡る話題が、金融業界の一部で盛り上がっていた。

「三井住友銀行のリニューアル店舗がおもしろい」「まるで、銀行の店舗のようではない」といった声が上がるほどの、リニューアルぶりなのだという。

百聞は一見にしかず。さっそく、話題にのぼっている店舗のひとつ、中野坂上支店を訪れることにした。

 

窓口がない

東京の基幹道路である山手通りと青梅街道は、中野区の一角で交わる。中野坂上の交差点である。その地名の通り、ここは小高い丘の頂点であり、新宿の高層ビル群が望める絶好のビューポイントだ。

その交差点近く、青梅街道沿いに「いかにも銀行の店舗」という重々しい風情で建っているのが、3階建ての三井住友銀行中野坂上支店である。

いや、正確には「だった」である。もはや、この建物は過去の遺物になっている。というのも、同支店は2017年9月に新装移転したからだ。いま、私の目に映っている建物はすでに役割を終えた「旧支店」であり、そのうち、物理的にも姿を消すにちがいない。

それにしても、訪ね先である新たな中野坂上支店はどこにあるのか―。

交差点の一角で辺りを見回すと、青梅街道を挟んでちょうど旧店舗の反対側にある大きなビルの外壁に、「三井住友銀行」という看板があった。しかし、その近くに店舗らしきものは見当たらない。看板が据えられたビルの1階、地下1階のフロアには同銀行のATMが設けられているが、よもや、これが新支店というわけではないだろう。

そこでビルのフロア案内板をみると、11階に三井住友銀行の名が記されていた。

まさか——。率直にいって、これが第一印象だった。

というのも、銀行の場合、ビルの1階に店舗が入居しているのが一般的である。2階、3階というケースもあるが、それは1階が個人顧客の窓口フロアであり、2階は法人顧客のフロアなどとして使用されていることが多い。

もちろん、単独で2階以上に設けられた「空中店舗」と呼ばれるものも存在する。しかし、これは伝統的に法人取引の店舗である場合が多く、しかも、上層階といってもせいぜい4階、5階というケースがほとんどだろう。

ところが、三井住友銀行の中野坂上支店は、11階という上層階である。この一点だけをみても、従来型とは明らかに違っている。

「中野坂上支店はいままで、個人、法人のいずれの顧客にも対応する店舗だったが、新店は個人顧客専用店舗として生まれ変わった」

そんな情報に基づいて常識的に考えれば、店舗は1階か、あるいは上層階であってもせめて2階にあるはずだ―そう考えていただけに、これはかなり想定外の出来事だった。型破りといえば、型破りである。

もっとも、驚きという意味では、これは序の口にすぎなかった。

11階でエレベーターを降りて店舗に入った瞬間、眼前に広がる中野坂上支店のフロアは、いままで見たことがないような光景だったからだ。もし、銀行であるとの認識を持たずに足を踏み入れたら、一瞬、いったい、いかなる職種のフロアなのか、わからないにちがいない。

そもそも、伝統的な「銀行らしさ」は皆無に近い。まず、女性行員たちが並んで顧客対応する窓口=カウンターがないのだ。カウンターによってフロアは二分されておらず、カウンター後方に広がる事務フロアもない。つまり、目に入るすべてが顧客フロアなのである。