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日本経済「1000年以上の成長記録」が覆す、歴史像と先入観

日本の超長期GDPを推計する
日本経済は歴史的にどのような成長を遂げてきたのか――近年、経済史研究の進展によって1000年以上の成長記録、超長期GDPが明らかになった。一体どんなことがわかるのか? 『経済成長の日本史―古代から近世の超長期GDP推計 730-1874』著者の高島正憲氏が綴る。

日本の歴史像が覆りつつある

小学校の歴史の授業で習った万葉の歌人・山上憶良が詠んだ「貧窮問答歌」には、過酷な徴税にさいなまれる当時の貧しい農民の姿が描かれている。

また、時代劇に登場するような、悪代官の年貢の取立てに苦しんで、最後に反抗して一揆を起こす江戸時代の農民など、人口の大多数を占めていた前近代の日本の庶民の姿は、古代からずっと貧しかったようなイメージが強いだろう。

近年の歴史学研究の進展によって、そうしたステレオタイプの貧しい農民のイメージや、西欧諸国より遅れた前近代日本という以前の印象はずいぶんと変わってきたようにみえる。

それでも、現代のように政府刊行物や民間調査などの統計資料が存在しない昔の日本の経済規模について、GDP(国内総生産)といった経済指標をもちいて把握することは容易ではない。

 

歴史の数量化

そもそも江戸時代より前の社会にGDPという概念は存在しない。日本で全国的な統計制度が開始されるのは明治期以降である。それより前に作られた歴史資料に書かれた生産量の数値には大雑把であるものが多い。

また、資料の大部分が散逸していることもある。当然のことながら、それらの資料は、資料集などに活字化されているものもあるが、漢文やニョロニョロとした「くずし字」で書かれた古文書である。

そうした資料群から具体的な数値を知りたい場合は、まず個々の資料から数的情報を抽出して、経済的分析に耐えうる歴史的データベースを作る必要がある。

それでも不完全なものは、特定地域の資料から算出した値を全国代表値として扱うか、何らかの仮定を設定した統計的加工、すなわち「推計」という作業をしなければならならない。

作業は困難ではあるが、GDPという歴史を縦につらぬく串を推計できれば、たとえば教科書とは違った時代区分に捉われない歴史を見ることが可能だろうし、経済成長の歴史について国際比較をすることもできるようになる。

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意外に残っている前近代の資料

では、どのようにGDPを推計するのか。

冒頭でも説明したように、前近代の日本では全国的な統計資料は完全には揃っていないが、それでも主要産業であった農業部門については、資料は比較的豊富に存在している。

たとえば、律令政府の作成した事務書類(公文書)などは一部ではあるが現存しているし、荘園を管理していた寺社の土地資料、貴族・僧侶の日記、百科事典など、古代・中世には数的情報を引きだせる資料は多い。

また、近世であれば、徳川幕府が各地の大名をまとめる形の連邦制的な国家体制をとっており、全国規模で人口や石高(あらゆる土地からの生産を石という米の収量単位におきかえた経済的指標)の記録があるので、それら数的情報を加工して、より実態に近い生産量を推計することができる。