「ピロリ菌=悪玉菌」は証明されたか?いま本当に分かっていること

「除菌」は必要に応じて行うべきだ
美馬 達哉 プロフィール

さらに、ぜんそくに関しては遺伝子レベルでの研究が進んで、ピロリ菌と呼吸器の炎症との関係を示す証拠が集まりつつある1

医学に限ったことではないが、悪をやっつけさえすれば善を手に入れることができるという短絡的思考は少し考え直してみた方がいいのだろう。

マーティン・J・ブレイザー博士は、その急先鋒で「いつの日にか私たちはピロリ菌を『失われた菌』として子どもたちに戻すために投与することになるかもしれない」とまで論じている。

なお、誤解を避けるため繰り返すが、私はピロリ菌除菌を「短絡的」に否定するものではなく、必要に応じて行うべきだと考えている。

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胃がんとピロリ菌除去に関するエビデンス

最後まで読んでいただいたお礼に、胃がんとピロリ菌についておまけを。

医学の論争を見かけた場合に、まじめな医者は必ず客観的証拠(エビデンス)があるのかどうかを探す。

そうしたデータベースのグローバルスタンダードが「コクラン・ライブラリ」である。

コクラン・ライブラリとはイギリスのオックスフォードに本部を置くNPO法人コクラン共同計画が作っている世界最大規模のデータベースである。

様々な治療法の臨床試験の妥当性と有効性を厳密に評価して、その時点でベストの治療法のエビデンスを提供しており、その客観性は世界で信頼されている。

 

そこに胃がんとピロリ菌除去を評価したものがあるので、一切コメント無しに結論の重要部分を訳しておく(A・C・フォード博士ら(2015年)「ヘリコバクター・ピロリ除菌と胃新生物」)。

「ピロリ菌に対する抗生物質使用は、胃がんの予防に小さな利点があることが判明した(胃がん発症は、治療を受けた3294人の内51人(1.6%)、無治療ないし偽薬の3203人の内76人(2.4%))。胃がんによる死亡者数の減少、どんな原因でもよい全死亡数の増減、食道癌の症例数の増減に影響したかどうかは不明である。治療の副作用に関するデータの報告は不完全である」

「ヘリコバクター・ピロリの検査と除去が、健康で無症状だがピロリ菌に感染したアジア人の胃癌の発生率を低下させることについて、限定された中程度の質のエビデンスを見出したが、このデータが他の人口集団に当てはまるとは限らない」

1 ピロリ菌には遺伝子の違いで胃の粘膜を傷つける程度に違いがあり、強毒菌と弱毒菌という言い方がされてきた。しかし、ブレイザー博士は、この呼び名は免疫系との関係では当てはまらず、人体との関係性が強相互作用のものと弱相互作用のものの違いに過ぎない、と論じている。