最近では人間ドックの胃カメラでもセットメニューのことが多いのでピロリ菌の検査と除菌は日本ではとても身近なものになってきた。が、そこには論争がある。
「胃がんの99%はピロリ菌が原因」
ホリエモンこと堀江貴文氏と彼の立ち上げた予防医療普及協会(ピロリ菌簡易検査キット3980円販売中)のキャッチフレーズ(『むだ死にしない技術』マガジンハウス)
「ピロリ菌を除菌しない。除菌すると死亡率が上がる」
抗がん剤批判で知られる近藤誠医師のすすめるがんにならないためのルール(『近藤誠がやっているがんにならない30の習慣』宝島社)
実際のところどうなのか調べてみた――と書き進めてもいいのだが、ここでは直接にピロリ菌とがんとの関係は深くつっこまない。
なぜなら、ネット上を巡回するピロリ・ポリスが除菌に対して批判的な医学的書き込みを取り締まっており、ネットの文章の枝葉末節までチェックして訂正と謝罪を求めるという噂があるからだ。
というのはもちろん冗談で、私が最近ピロリ菌に興味を持ったきっかけが、胃がんとの関係ではなく、マイクロバイオームの専門家と意見交換したことだからだ。
マイクロバイオームとは、人間の身体の表面や中(とくに胃腸の中など)やくぼみに棲む何兆ものさまざまな種類の微生物の群衆――腸内細菌や皮膚の常在菌など――のことだ。
21世紀になって、人間という生き物にとって多様な微生物の群衆と共存することが不可欠だとわかってきている。
海や山の自然が多様な生物種のおかげで均衡を保っていることはよく知られている。今では、自然保護には生態系の知識つまりエコロジーの考え方は欠かせない。これは地球環境だけではなく、人間の身体にも当てはまっている。
診察室で毎日消毒手洗いそしてうがいを繰り返している身としては、ちょっと複雑な気分になる。
目に見えない大きさの細菌などたくさん集まっても吹けば飛ぶような量ではないか、と思われるかもしれないが、侮るなかれ、それは間違いだ。
人間の身体は30兆の細胞だが、マイクロバイオームは100兆個の細菌や真菌(カビ類)からできている。つまり、人間の身体から適当に一つ細胞を取り出せば、ヒトの細胞である確率は2〜30%にすぎない。
ちりも積もれば山になるというが、人間一人分のマイクロバイオームの総重量は1.5キロという。これはだいたい人間の脳の重さと同じくらいだ。