なぜ今、日本には「ブロックチェーン・メディア」が必要なのか

この技術は世界を変える
エミリー・パーカー, LONGHASH プロフィール

エミリー そしてブロックチェーン技術が特徴的なのは、そのようなビッグデータに自分のデータを提供するか、あるいは、それをいくらで販売するか、ということまで、個人の意思によって決定することが可能になる、ということです。

個人の情報はあくまで個人の意思によって利用の仕方が決められ、情報提供に対してインセンティブが与えられることになれば、巨大企業が情報や資本を独占することはできず、トリクルダウンの仕組みが生まれます。こうした新しい社会を実現するのが、ブロックチェーンが持つ分散型のコンセプトなのです。

 

ブロックチェーンで個人がマネーとつながる

クリス いまイニシャル・コイン・オファリング(ICO)という資金調達の手法が、主にアメリカで注目を集めています。ICOは、まだその仕組みに信用が担保されていないので、投資家にとってはリスクが極めて高いものですが、技術やシステムが確立していけば実に有益な資金調達の手段となるでしょう。

エミリー 日本ではベンチャーキャピタルの機能が海外と比べて十分効果的とは言えず、アメリカや中国に比べてもユニコーン(創業10年以内の時価総額1000億円以上の未上場企業)が極めて少ないですね。

ICOであれば、ベンチャーキャピタルの力を借りる必要さえなく、小規模なスタートアップ企業でも、魅力的な仮想通貨を発行することさえできれば、資金調達が可能になります。適正なルールに基づいたICOの枠組みが確立されれば、日本でもスタートアップ企業が多数生まれ、産業界は活性化すると思います。ICOの強みは、スタートアップ企業であっても、そのコンセプトに賛同する世界中の人々から資金を集めることができることです。

クリス そうですね。ブロックチェーンのコンセプトは、多様な個人を起点として、世界中に情報とマネーがつながるコミュニティができることだと言い換えることもできます。取引やその記録は世界規模で分散されており、まさにクロス・ボーダーです。そうしたブロックチェーン技術に支えられて、やがてはクロス・インダストリー、クロス・カンパニーの世界ができるということなのです。

エミリー ビットコインを考案したとされるサトシ・ナカモトは、2008年のリーマンショックを経てブロックチェーンのコンセプトを編み出したとされます。一部の資本家や金融機関、政府や中央銀行が経済やマネーをコントロールする仕組みの限界が、世界的な金融危機として現れたと考える人たちが、ブロックチェーンのコンセプトを支持したのです。

クリス ただし、これはいまの政治や既得権益を持つ人は敬遠されるかもしれません。強力な中央集権体制によって統治されている中国では、ブロックチェーンの分散型の仕組みを政府が認めず、仮想通貨の取引自体が全面的に禁止となってしまいました。分権型のブロックチェーンの仕組みが広がると、政府の方針にそぐわない経済やコミュニティが発生し、国全体に広がりかねないことを懸念したとも言えます。

[写真]ブロックチェーンが提案する分散型社会の仕組みには、既成権力の大きな抵抗があると話すクリスとエミリー(撮影:岡田康且)ブロックチェーンが提案する分散型社会の仕組みには、既成権力の大きな抵抗があると話すクリスとエミリー(撮影:岡田康且)

エミリー アメリカでもそれは同じです。アメリカ社会で大きな影響力を持つのは、金融界の大物や、情報を囲い込むことができる巨大IT企業です。アメリカでも分権型のブロックチェーンが独自の経済を作ってしまうことに、既存の産業が大きな抵抗感をもっているように感じます。

クリス ただ、そこにも誤解があると私は思いますね。ブロックチェーンは、既存のシステムをすべて否定しているわけではありません。完全な資本主義というものは存在しないわけで、ブロックチェーンはその資本主義の問題を解決する手段として考えられたテクノロジーです。つまり、既存の資本主義を補完し、補強するものだと思います。

日本では、いわゆる「仮想通貨法」が施行され、未発展な段階とはいえ、一定のルールの下で仮想通貨取引ができるようになっています。これを規制の強化だと受け止めた人々もいたようですが、むしろブロックチェーンが合法化されたと見ていいでしょう。これで我々も、法律の枠組みの中でブロックチェーンのプロジェクトを進められるようになりました。この分野に大きな投資が起こる可能性が広がったと思います。

開発者も投資家も、日本には可能性がある

エミリー 日本の技術者、研究者も、ぜひこの分野に参加していってほしいですね。いま世界では、情報技術のエンジニアだけでなく、数学者や物理学者も加わって、それぞれがチームを組んで、ブロックチェーンの研究が盛んに行われています。そして実際、ビットコインからイーサリアムが誕生したように、ブロックチェーンの技術は日々進化しているのです。

クリス 一方で、すでにブロックチェーンは大きな実績も残しています。ビットコインは最も古いブロックチェーンの技術で運用されてきた仮想通貨ですが、開始されてからまだ一度もシステムがダウンしたことがありません。これは驚異的なことで、ブロックチェーンが、他のシステムと比べても強固で実用的であることを示しています。

ただし仮想通貨は、まだブロックチェーンのコンセプトの一部を実現したにすぎません。投機的な商品として使われ、その機能はエクスチェンジにとどまっています。本来ならフィンテックの一部として、送金や決済の安全で有効な手段となり、さらに無限にサービスが広がるはずです。怪しげな投機対象ではなく、安定した社会インフラとなる可能性を秘めているのです。

エミリー 実のところ、ブロックチェーン技術を応用して、具体的な社会インフラが構築された実績は、まだないんですね。私たちのプロジェクトは、これを実現する仕組みを考え、作っていこうとする試みです。

クリス 我々のプロジェクトとは、つまりブロックチェーンの情報と人材、そして投資を日本に集めることです。そのためには、人材の育成も欠かせません。私たちの重要なチャレンジは、ブロックチェーンの可能性を、行政にも企業にも、また消費者にも理解してもらうことなのです。

エミリー だからこそ、その第一歩として、ブロックチェーン技術に関する日本語メディアを立ち上げようと考えました。情報提供を通じて、少しでもブロックチェーン技術に挑戦しようとする人を後押ししていければと思っています。

(取材・構成/藤岡雅)