なぜ今、日本には「ブロックチェーン・メディア」が必要なのか

この技術は世界を変える
エミリー・パーカー, LONGHASH プロフィール

エミリー こうしたプロジェクトが実現すれば、たとえば現在、日本社会で大きな話題となっている文書管理の世界にも、まったく新しい地平が開けます。もし、この技術を使って、日本の戸籍制度にこの仕組みを導入したとしましょう。戸籍というのはきわめて日本的な制度ですが、興味深いことにその情報を確認しようとすれば、たとえばオーストラリアやアメリカ、ドイツ、イギリスなど世界各地に分散されて保管されている情報のカケラを集めてくることになるわけです。

 

とても不思議な現象ですが、このような分散管理によって、情報は安全に保管され、かつ誰かが不適切な方法で恣意的に改ざんすることができないようになるのです。もし、情報のカケラを保管するノードを、宇宙に浮かぶ衛星のストレージにも置けば、そこからも情報が飛んでくるということにもなるかもしれない。災害や戦争にも影響を受けにくい情報管理の基盤が構築できるのです。これがブロックチェーンの発展的な姿です。

[写真]ブロックチェーンの持つグローバルな分散性が日本社会を変えると話す、エミリー・パーカー氏(撮影:岡田康且)ブロックチェーンの持つグローバルな分散性が日本社会を変えると話す、エミリー・パーカー氏(撮影:岡田康且)

クリス それにしても、日本では文書管理を巡る問題で国会が紛糾することが続きましたね。政治資金の管理や行政のシステムにブロックチェーンの仕組みを使っていれば、こうしたことは起き得ないと思います。

エミリー そうなんです。たとえば財務省による決裁文書の書き換えも大きな問題となりましたが、行政システムにブロックチェーン技術を使っていれば、記録や文書を勝手に書き換えることはできなくなります。

政治家が過去に取った言動も記録されて行くでしょうから、恣意的な秘密を作りにくくなり、汚職が減ります。何かと対立を生む歴史問題でも、記録の正確性が担保されますから、感情的な歴史修正主義が横行する余地もなくなります。誰もが検証可能で、完全に信頼のおける記録、という「エビデンス」(証拠)にもとづいて、国会での議論や行政の運営、ひいては社会そのものの運営が行われるようになるのです。

中央集権的な「ビッグデータ」の世界を超えて

クリス 最近、米フェイスブックが世界規模で個人情報を流出させ、とくにトランプ政権が誕生した米大統領選の結果にも影響したかもしれないことが取り沙汰されて、大きな議論が巻き起こりました。米株式市場も大暴落して話題になりましたね。

このように、世界中で頻発する情報流出問題は、そもそも情報が巨大企業に集中しているから起こることなのです。ブロックチェーンであれば、このような経済損失が起こる可能性を限りなくゼロに近づけることができます。

情報流出への不安は、ビッグデータを利用して価値を生み出す新たなイノベーションの動きを阻害さえしています。たとえば病院での診療情報は、各病院のサーバーやクラウドに管理されていて、ビッグデータとしては集約されていません。その大きな理由のひとつが、セキュリティです。医療界や厚労省は、こうした個人のプライバシーに深くかかわる診療情報を一ヵ所に集めてしまうと、万が一、サイバー攻撃を受けた場合に、致命的な情報流出となるのではと神経をとがらせているのです。

そこで、セキュリティに優れるブロックチェーン技術の出番となります。診療情報を統合できれば、医師はあらゆる病の統計的な情報を自在に分析できるようになり、有効な治療が行えるようになるでしょう。保険会社は、その情報を利用して、より安い保険料を設定できるようになったり、これまでの保険料を還付できるようになったりするわけです。

現在でも、一部の大手IT企業には、ビッグデータを蓄積し、保全する技術や資金があり、開発を進めていますが、産業によってはセキュリティ対策などのコストが足かせとなって投資が追いつかず、情報の集約化すらできずに、本来生み出し得るはずの価値を生み出せていない分野が多々あるのです。ブロックチェーンがあれば、安全に、初期投資を抑えてビッグデータを活かす産業を生み出すことができるはずです。

エミリー 付け加えれば、ブロックチェーンが社会に浸透すると、いまあるビッグデータが、よりビッグになる可能性も出てきます。たとえば、現在のビッグデータは政府や企業ごとに囲われています。メガバンクや通信大手企業には大量の顧客情報がありますし、あるいはグーグルやフェイスブックにも大量の会員データと顧客の行動データがあります。しかし、彼らがそれを広く共有することはありません。

クリス その通りですね。いまの社会では、巨大企業、とくに巨大IT企業は、情報を囲い込むことで新しいサービスを開発しています。彼らが囲い込んだビッグデータは、彼らのためだけに利益を生むからです。しかし視点を変えて、企業が囲い込んでいる情報を社会が生み出した公共財と定義すれば、むしろそれを統一したほうがデータの価値は最大化されます。