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なぜ今、日本には「ブロックチェーン・メディア」が必要なのか

この技術は世界を変える
「ブロックチェーン」。昨年以来、日本の経済ニュースを騒がせてきた言葉だが、仮想通貨の流出問題や投機的なマネーで乱高下するビットコイン価格など、どこか怪しげな印象を持っている人も少なくないだろう。だが、そこには大きな誤解があると、ブロックチェーンの情報提供を行うLONGHASHの日本法人を立ち上げた起業家クリス・戴氏と、共同創業者でウォール・ストリート・ジャーナル紙記者などもつとめたエミリー・パーカー氏は指摘する。日本でブロックチェーン・メディアを展開することになった二人が、今なぜブロックチェーンを知るべきなのかを、熱く語る。

ブロックチェーンは日本でこそ花開く

クリス・戴 2017年は日本における「仮想通貨元年」と言われ、熱狂的な視線がビットコインに注がれました。ただ、それはほとんどが投資目的としてであり、仮想通貨で使われているブロックチェーン技術の可能性までは理解されていないと思います。

エミリー・パーカー そうですね。そのような中で、仮想通貨価格が急激な乱高下を繰り返したり、取引所による仮想通貨流出問題が発生したりするのを見て、日本社会における仮想通貨への信用が揺らぎ、ブロックチェーン技術への理解もさらに後退してしまったように思えます。

しかし、そこには大きな誤解があると思います。ブロックチェーンは、単なる仮想通貨の取引や、ファイナンスのための技術ではなく、数々の社会問題を解決する手段にもなり得る、重要な技術です。そのことを、日本のみなさんにも広く知っていただきたいと考えています。

 

クリス 私は、中国で仮想通貨のビジネスを手掛けた経験があり、日本と中国での投資ファンドも運営してきました。中国国内では仮想通貨が禁止になりましたが、日本では「改正資金決済法」(仮想通貨法)が成立したこともあり、ブロックチェーン技術にかかわるプロジェクトを進めるには、世界的に見て適した国となっています。

一方で、日本ではフィンテックへの投資がほとんど進んでおらず、フィンテック投資の規模は中国のわずか1.5%しかありません。私自身は、この状況を悲観的に見ているわけではなく、かえって、フィンテック投資がまだ本格的ではないことが、ブロックチェーンの技術が広がる可能性を豊かにしていると感じます。

つまり、もし巨額の開発費を調達できる、大規模なデベロッパーがすでに乱立している状況であれば、小規模なスタートアップは、なかなか太刀打ちできません。日本の環境は、かえってアイデア次第で、さまざまな人がブロックチェーン技術を発展させ、社会変革に貢献していくことができる状況だと言えるのではないでしょうか。

[写真]クリス・戴氏フィンテック投資が盛んではないからこそ、日本のブロックチェーン・スタートアップには活路があると話す、クリス・戴氏(撮影:岡田康且)

エミリー ジャーナリストとして、私はウォール・ストリート・ジャーナルで政治や経済、テクノロジーについての取材を行い、記事を発表してきました。一方で、日本の経団連でも仕事をしたキャリアもあり、日本の経済界を内側と外側から観察してきました。

その経験から言っても、日本はブロックチェーンとの相性がよいと感じています。たとえば、日本社会は高齢化の問題を抱え、また働き方についての議論も活発になっています。

クリス つまり、所得の再分配機能が問題になっている、ということでもありますね。日本では、企業の内部留保が日増しに大きくなっていることが話題になっています。世界的に見ても、大企業に人材や資本、データが集中する中で、中小企業や個人には、そうしたリソースが配分されにくくなっているという問題が顕著になっています。

エミリーが指摘したように、そうした日本社会が抱える問題を解決するコンセプトを、ブロックチェーンは持っていると思います。

そもそも、「ブロックチェーン」とは何か?

エミリー ブロックチェーン技術の特徴を一言で言うなら、それぞれの情報がP2P(Peer to Peer、対等な個人同士の関係)のネットワークを交差しながら、チェーンで結ばれ、分散的に管理されることです。センターとなるメインサーバーが存在せず、世界中のネットワークで管理されるので、情報は特定の誰か、あるいは中央集権的な政府や組織によって、恣意的にコントロールされることがありません。個人の匿名性を保ちながら、組織によって囲い込まれる形での秘匿性はない。要するに、情報が一ヵ所に集中せず、分散していることがブロックチェーンの重要なコンセプトです。

さらに、個々の情報ですらひと塊のものとして一ヵ所に遍在することがなく、いくつものパーツに分かれて世界中に分散して管理されます。たとえ誰かがサイバー攻撃を行って、ある情報を盗み取ろうとしても、すべてのパーツを集めるためには、膨大な時間と手間がかかってしまいます。それによって、強固なセキュリティが保たれるわけです。

クリス たとえば、現在進行中のあるブロックチェーンのプロジェクトでは、スマホやパソコンのデバイスのストレージ(データの保存領域)を、みんなでシェアする仕組みを作ろう、というものがあります。

これが完成すると、世界中のデバイスのストレージに暗号化されたデータのパーツが保存されます。数千、数万という単位でひとつのデータがコピーされるので、大量のバックアップが世界中に分散され、保管されることになる。このようにして保管されるデータが、この世から消えてなくなることは、地球が滅亡でもしない限りはあり得ません。

一方で、ひとりひとりのデバイスには、暗号化されたデータの「カケラ」しか入っていませんから、盗み読みされることもないのです。