数千万稼ぐ者も…「フェイクニュース製造村」で見た驚きの現実

「罪悪感?騙される方が悪いんだよ」
佐野 広記

「息子にはもっとフェイクニュースを書いてほしい」

取材では、マケドニアの若者たちの間で「先生」と呼ばれている人物に面会した。ミルコ・チェセルコスキ氏。彼の名刺には「トランプ大統領の誕生を手伝った男」と書かれている。ミルコ氏は7年前から、ネット上で広告収入を得るノウハウを教えており、これまで大勢のヴェレスの若者を指導してきたと言う。

若者たちに必ず紹介するという、1本のフェイクニュースを見せてきた。見覚えのある記事―アメリカで出回っていた、あの『歯磨き粉のチューブ』のニセ記事だった。

「この1本だけで、1000万円稼ぎ出しました。世界で1億回も読まれたんですよ。実はこの記事を作ったのは、私の妻なんですけどね」。

勝ち誇ったような笑い声が、耳にこびりつく。

「『大きい』とか『たくさん』のような普通の言葉を使ってはダメなんですね。『途方もない』『ものすごい』『計り知れない』『壮大なスケールの』『天井知らずの』など大げさなフレーズを使うんです。『ここだけの』とか『速報』とかをつけ加えれば、クリックの獲得は間違いなしです。中身は必ずしも事実でなくても良いのです」

 

去年、フェイスブックやグーグルは「フェイクニュース対策」を強化すると発表。ヴェレスの若者のサイトやアカウントは次々と閉鎖された。しかし彼らは、今なおフェイクニュース作りを続けている。

今回、フェイクニュース作成者10人近くに話を聞いたが、その中には警察官もいた。彼らは「そもそも国や企業が出す情報もウソばかり」と言い、ウソをつくことへの閾値が、私たちとはまるっきり違うのだ。

ある家族を訪ねた際、私は、絶句するしかなかった。まだあどけなさの残る17歳の男子高校生が、事実をねじ曲げたウソの記事をスラスラと作り上げ、あっという間に全世界に発信していた。それを横で見ていた母親は、止めるどころかむしろ、もっと面白いウソをつきなさいと煽っている。

17歳の高校生が、母親の意見を聞きながら実際にフェイクニュースを作っている場面。まるで宿題をこなすように、淡々と仕上げていく

『衝撃ニュース! サンドラ・オー(カナダ出身の有名女優)がケガをして、ドラマを降板した』――目の前で、高校生が作り上げたフェイクニュースだ。両親の年収を優に超える稼ぎを手にし、その金でイタリア製のバイクを買ったばかりだという。

「罪の意識はないのか?」と尋ねると、息子は「クラスメイトの4割くらいがフェイクニュースを作ってるよ」と言い、母親は「それほど悪いことだとは思いません。お小遣いをあげなくて済んで家計は助かっていますし、息子にはもっと頑張って欲しい」と悪びれることもなく言い切った。私にとっては異常な光景が、彼らにとってはただの日常だった。

フェイクニュースがなくなる日は、はるか遠い先のことかもしれない。

佐野 広記(さの・ひろき) NHKディレクター。2006年NHK入局。現在、大型企画開発センター所属。これまで制作した主な番組は、NHKスペシャル「果てなき苦闘 巨大津波 医師たちの記録」、「亡き人との“再会”」、「シリーズNEXTWORLD」、「AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン」など。