今から138億年前、ビッグバンと呼ばれる火の玉のような状態から始まった宇宙は、どのようにして現在の姿へと進化してきたのか? そしてこれから先どんな運命をたどるのか? この究極の問いへの答えをもとめて、日々、世界中の物理学者は研究を続けています。
先日、東京大学宇宙線研究、国立天文台、総合研究大学院大学などからなる研究グループが、宇宙の彼方にたくさんの銀河団を発見したことを発表しました(プレスリリース:宇宙は原始銀河団であふれている)。この発見は、私たちの住む宇宙がどのようにできあがってきたのかを知るための非常に重要な成果なのだそうです。
ご存じのように地球は太陽系の中にあり、太陽系は天の川銀河という銀河に含まれています。銀河は星が数千億個集まった集団ですが、さらにその銀河が数千億個も集まったのが銀河団です。惑星、恒星、銀河、銀河団というように宇宙は階層構造でできているのです。
そのもっとも大きな構造である銀河団がどのようにできあがってきたのか、また銀河団の中でそれぞれの銀河がどのように成長してきたのか。このことを解明するのは宇宙がどのようにできあがったのかを知るうえで不可欠なのです。
銀河団の成長過程を理解するためには、現在の銀河団だけではなく、まさに成長しつつある銀河・銀河団を調べることが重要です。つまり、宇宙がもっと若かったころの銀河団を観察する必要があるのです。
いったいどうすれば過去の銀河団を調べられるのでしょうか? そのカギは光の速さが有限であることにあります。
遠く離れた天体までの距離を表す単位として「光年」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。たとえば「10光年」とは光の速さで10年かかる距離を表しています。10光年離れた星から私たちに届いた光は、10年前にその天体から出た光ということになります。つまり、私たちは10年前の姿を見ているのです。
同じように、100億光年離れた天体の姿を見ることは、100億年前の宇宙を見ていることになるのです。
こうした理由から、天文学者は遠く離れた宇宙にある銀河団を探してきました。宇宙の年齢が138億年ですから、120億光年離れたところにある銀河団を見つければ、それは宇宙が誕生してから18億年しかたっていないころの銀河団ということになります。このような宇宙の初期の銀河団は「原始銀河団」と呼ばれています。
しかし、そのように遠くにある銀河団を見つけることは簡単ではありません。宇宙で銀河団が占める割合は、体積にしてわずか約0.38パーセント。遠方宇宙に存在する原始銀河団はこれよりも小さいと考えられています。ちなみに、これまでに見つかっていた原始銀河団はわずか20個以下でした。
この状況を一変させたのが日本の国立天文台が持つ「すばる望遠鏡」です。ハワイ島マウナケア山の山頂にあるこの望遠鏡は、口径8.2メートルの鏡を備えた、地球上でもっとも微弱な光まで捉えることのできる望遠鏡のひとつです。
今回の発表を行った研究チームはすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam)」を使って、銀河団探しに挑みました。
ハイパー・シュプリーム・カムは、一言で言えば超高性能のデジタルカメラです。大きさは人の背丈以上もあり、重さは約3トン。画素数は8億7000万画素にもなります。
探査の結果、研究グループは約120億年前の宇宙に原始銀河団を200個近く発見しました。これまでの研究で見つかっていた原始銀河団の数のじつに10倍です。この発見によって、銀河団の成長に関する研究は格段に進展すると期待されています。
今回発見された原始銀河団からわかったことを詳しく見てみましょう。