「私はもう終わり」人生を諦めはじめたエリート銀行員が急増中のワケ

特に、バブル採用組に顕著なようで…
浪川 攻 プロフィール

米銀の現状から邦銀の未来を探る

メガバンクが公表した事業構造改革には、収益悪化が著しい国内リテール部門(個人、中小企業向け業務を担っている営業店)に最新のIT技術(AIを搭載したRPA〈Robotic Process Automation〉)を導入し、これまで人手に依存してきた業務の量を軽減することも含まれている。

一定の条件を設定すると、精緻なデータ解析から資料の作成までを自動的に行うのがRPAであり、これによって膨大な業務が一挙に効率化されるという。業務量が軽減されればその分、人員は不要になるため、このシステムは営業現場で大きな効果を発揮することになるだろう。

しかし、RPAの導入対象として適しているのは営業現場よりも、むしろ本部の人事や営業支援などの業務であり、これまで銀行内のピラミッドの頂点に君臨してきた職場エリートたちも人員削減のターゲットとなりうる。

こうしてみると、「自然減」の対象世代ならずとも多くの銀行員たちが不安を抱くのは当然といえよう。

 

しかも、今回の事業構造改革の目的は、コスト削減だけに限らない。事業コストを抜本的に軽減しながら顧客サービスの質的向上を実現しなければ、近年、銀行業界が陥っていた構造不況から脱却できないからだ。

じつは、邦銀に先駆けて、欧米の銀行ではすでに同様の改革が2008年のリーマン・ショック後から行われている。

その最新事情は、4月17日に発売となる拙著『銀行員はどう生きるか』で詳報しているが、欧米の銀行における改革のエッセンスはやはり、コスト削減と顧客サービスの圧倒的な向上である。つまり、邦銀の事業構造改革はその動きの後追いであり、欧米の銀行業界からの周回遅れのランナーなのだ。

顧客サービスを向上させるためには、最新のIT技術の導入によって生み出される〝本部の余力〟を営業現場に投入することもある。要するに、「稼がない者はたんなるコスト」というわけである。

わが国にもフィンテック(金融とIT技術の融合)の波が本格的に押し寄せて、ようやく資金決済などの分野で銀行よりも低廉な費用で質の高いサービスを提供するプレーヤーが誕生してきている。

従来のような似たり寄ったりのサービス品質で銀行同士が痛み分けのような闘いを連綿と繰り広げてきた時代は終わり、銀行は「顧客を選別する立場」から「顧客に選別される立場」に追い込まれることになる。

そうした時代に向かうなかで、これまで保守的な企業の代表格であった銀行も、いよいよ変わらざるをえなくなった。今後、「変われる銀行」だけが生き残るという進化論的な世界が始まり、銀行員像も劇的に変わるのだ。

銀行員にとってそれは未体験ゾーンへの突入を意味し、当然ながら不安が付きまとうだろう。世の中から社会的なエリートの典型とみなされてきたのが銀行であり、銀行員だった。その評価には安定という要素が含まれていたが、もはや安定は失われつつある。

真のエリートとは様々な困難や不安定さをものともせず、ライバルとの競争に勝ち残ることができた者であるとすれば、これから銀行員という社会的エリートたちはまさにその真価が問われることになる。

自分の能力で顧客の信頼を得ながら、銀行が用意したセカンド・キャリア制度に依存せず、自らの手腕で次の職場を切り拓いていく時代が、すぐそこにまで来ている。