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「古典は売れる」…いま『資本論』『幸福について』を漫画にする理由

「まんが学術文庫」創刊秘話
現代ビジネス編集部

漫画だからこそできること

そんなふうに古典が脚光を浴びるなか、「漫画化」という方法で成功していたのが、イースト・プレスの「まんがで読破」シリーズ(2007年~)です。

古典の漫画化という試み自体は、低年齢向けの学習まんがを始めとして、それまでもたくさんされてきました。しかし、「まんがで読破」シリーズは、デカルトの「方法序説」や「コーラン」のような哲学や宗教といった難解な「論文」とも言える原典を、半ば強引に「ストーリー漫画」に仕立て上げた。難しいからと避けられていたものを、まさに「超訳」でわかりやすい漫画にした。それが奏功したのでしょう。今では累計350万部を越え、139タイトルも出版されている。

難解な本を、そのまま漫画にしても意味はありません。それではただの、イラストのついた哲学書で、結局難解なままです。そうではなくて、原作をベースにしながらも、漫画として楽しいもの、スリリングなものにしなければならないことに気づかされました。

 

講談社という会社は、「少年マガジン」が1959年に創刊されて以来、60年にわたって漫画を作り続けてきた会社です。難解な名著を、面白く漫画にできるノウハウを持っています。そのための人材がいます。

「古典の漫画化」に挑んだのは、そんな理由からでした。

「まんが学術文庫」では、原作をベースとしながら、物語が展開される

漫画化する方法

では、私たちがどのように過去の名著を漫画というメディアに変換していくか。その過程をお話しましょう。

まずは漫画家を探さなければなりません。絵がうまい、や、読ませる力がある、といった資質はもちろん必要ですが、今回はやはり「古典や名著に通じているか」を重視しました。どれだけ絵がうまくても、その内容を咀嚼できなければ、読者にその作品の魅力を伝えることは難しいだろうと思いました。

だから、そもそも関心がありそうな人、「この人は描けそうだ」という人を探して、電話をかけまくりました。正直、最初は「そんな漫画家いないだろうな」と思っていました。まったく失礼な話ですが(苦笑)。

ところが、いたんです。「実は古典や哲学が好きだった」「こういうものを描いてみたかった」という漫画家が。これは幸運でした。

次に、漫画家と一緒に、その名著を「どうすれば分かりやすく伝えることができるか」を考え抜きました。

私も『風のシルフィード』や『名門!第三野球部』といった作品を筆頭に、数々の漫画編集に携わってきました。

漫画編集の極意のひとつは、「どれだけ分かりやすいものを作れるか」です。ひとつのコマにどれだけのセリフをいれるべきか、第一話にはどれだけの情報を詰めるべきか、専門家の助言をどこまで反映させるか……漫画家と延々話し合って、描いては削り、描いては削りを繰り返して、ひとつの作品を作り上げます。

さて、名著はやはり難解です。難解ですが、読み進めていくと、大体その本に書いてあることは、5つか6つぐらいにまとめることができます。乱暴、と言われるかもしれませんが、まずはその要素を5つぐらいに分解する。そして、その本の世界観を壊さないように、主人公のキャラクターを作り上げて、その5つの要素を「回収」する物語を作っていくことにしたのです。

『罪と罰』より

結果、名著の内容を理解できるうえに、ストーリー漫画としても面白い……そんな作品が仕上がったという自負があります。

「難解な本の中身が漫画で分かるわけないだろう」という専門家の批判は覚悟の上です。でも、哲学者になりたくて哲学書を読む人は少数です。古典には生きるヒント、明日を変えるヒントが詰まっている。それなのに、多くの人が難解を理由に古典を敬遠し、そのヒントを知る機会を失っているのではないか――そんな風に思っていました。

「哲学者になりたいわけではないけど、哲学についてちょっとでも学ぶことができたら、自分の明日がちょっとは変わるんじゃないか」……そんなことを思っている人のためにも、こうした解説書が世の中には必要だと思っています。

専門家がみれば、「単純化しすぎだ」というかもしれない。しかし、入門書としてはこの分かりやすさこそが必要ではないか(『歎異抄』より)

どれでもいい。興味のある作品を、手に取ってみてください。絶対に「過去の名著って、面白いんだな」と思っていただける自信のある作品ができましたから。