中国共産党版「聖地巡礼」の絶妙なユルさをみよ

やる気があるんだかないんだか

全土で249カ所が指定された

紅色旅遊という言葉をご存知だろうか? これは中国共産党のイデオロギーと結びつきのある革命の歴史(1840年のアヘン戦争以降の中国現代史)に関係する土地をめぐる旅行形態のことで、英語ではそのものズバリ「レッド・ツーリズム」と訳される。いわば、中国共産党版の「聖地巡礼」だ。

この紅色旅遊は、基本的には党関係者・公的機関や国有企業関係者の研修や学校の遠足などで動員されたり、過去のイデオロギッシュな時代にノスタルジーを持つ一部の老人がツアーで行くものなのだが、なかには自主的に行く人もいないではない。

中国共産党がこの紅色旅遊を提唱したのは、胡錦濤政権下の2004年。その後、2011年から第2期計画がはじまり、中国全土で249ヵ所が「紅色旅游景点」に指定された。

 

国家旅游局による特設ホームページ『中国紅色旅游網』によると、第2期終了時点の2015年において、紅色旅游をおこなった述べ人数は10.27億人(なお、同年の中国国内での旅行人口は述べ40億人ほどだ)。市場規模は2611.74億元(約4.4兆円)だったという。習近平政権のもとでも第3期計画(2016~2020年)が進められ、いっそうの拡充を見せる。

※国家旅游局管轄下の『中国紅色旅游網』。当局の政策紹介は詳しいいっぽうで、紅色旅游スポットを地図に落とし込んだ図が準備されていないなど、情報量の割に使いにくい

紅色旅游のスポットになる場所は、かつて政権奪取前の中国共産党が「農村から都市を包囲する」を合言葉として建設していた根拠地や、内陸部を大回りして北上した長征の通過経路(=要するに「ド田舎」)が多い。

紅色旅游は研修や遠足などを通じて、市場の需要とは無関係に観光客を動員できることから、当局は「扶貧富民」という側面を提唱しており、一種の貧困対策や地方創生政策としての意味合いも持っている。

この紅色旅游のスポットが集中する省のひとつが、中国中南部にある江西省だ。2016年の1人あたりGDPは6038ドルで、全中国平均の4分の3程度。有名な景徳鎮の陶器を除けば名物は少なく、産業もパッとしない。近所に湖南省や広東省・江蘇省など「キャラの濃い」省が多いせいもあり、存在すら忘れられることも少なくないマイナー省である。

だが、なぜか江西省は中国共産党との縁だけは深い。1927年8月1日、省都の南昌で周恩来・朱徳らが起こした「南昌蜂起」が、人民解放軍の起源(ゆえに蜂起日の8月1日は建軍記念日になっており、現在でも人民解放軍の軍旗などで「八一」がしばしば使われる)。

さらにこの反乱軍が毛沢東の軍隊と合流して立てこもったのが、省南部の井岡山。その後、はじめて地方政権「中華ソヴィエト共和国」を樹立したのも同じく省南部の瑞金……と、江西省はいわば中国共産党と人民解放軍の揺籃の地なのだ。

南昌市内にて。基本的に街がイケていないが、古き良き中国が残っていると考えることもできる。

今年4月上旬、筆者はたまたま江西省の南昌に出張し、 南昌蜂起を記念した八一起義紀念館を見てきた(本当は井岡山や瑞金にも行きたかったのだが)。今回の記事では、読者の皆さまを中国人民解放軍(紅軍)のレッド・ツーリズムにご案内しつつ、現在の革命聖地が中国人からどんなふうに受容されているのかを、写真を中心に見ていこう。