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受験エリートにはない「人間力」を養成する名門・武蔵の教育方法

20年先を見据えたリーダーの育て方

受験問題もユニーク

私立の武蔵高等学校中学校は、超難関進学校であるが、「受験刑務所」のような入試に特化した教育は行わない。その代わり、20年先を見据えて、生徒にとってほんとうに役に立つ教育を行っているユニークな学校だ。

筆者は、3月24日にこの学校の中学2年生から高校2年生の10人に授業を行ったが、大学レベルの内容に十分についていける中学生がいたので驚いた。しかも、この生徒たちは、他人の気持ちになって考えることができる共感力がある。筆者はこの学校のファンになった。

中高一貫校で高校からの入学者はいない。中学入試では「袋問題」(俗称「おみやげ問題」)と呼ばれる変わった設問がある。

〈二〇一七年度武蔵中学校入学試験、理科の大問三。受験生には問題用紙だけでなく、小さな封筒が配付される。その中に、二本のネジが入っている。それをよく観察して、問いに答えるのだ。

袋の中に、形の違う2種類のネジが1本ずつ入っています。それぞれのネジについて、違いがわかるように図をかき、その違いを文章で説明しなさい。ただし、文字や印、傷などは考えないことにします。(試験が終わったら、ネジは袋に入れて持ち帰りなさい。)

B4のわら半紙の上のほうに三行の問題文が書かれており、それ以外は余白。そこに自由に図を描き、違いを説明する。いきなり見たら面食らうだろう。

もちろん武蔵の受験生たちはこれが武蔵名物の「おみやげ問題」であることを知っている。試験終了後、そのものを持ち帰るので「おみやげ問題」と呼ばれている。

1922年に実施された第一回入試では三枚の木の葉が配付され、「与えられた三枚の葉をしらべて異って居る諸点をあげなさい」と問うていた。創立以来の伝統なのだ。

これまでに、マグネットシート、画鋲、キャスター、ファスナーなどが“おみやげ”になっている。現校長の梶取さんが武蔵を受けたときには、みかんが配られ、試験中にそれを食べてしまった受験生もあったという〉

 

梶取弘昌校長(音楽担当)は、武蔵の教育法について

〈懇切丁寧に一〇〇パーセントわかる授業は必要ありません。わくわく感のある授業がいちばんいい授業なんです。これってよくわかんないけど面白いなと思って食い付いてくれる生徒が四~五人いればいい。全員が食い付いてくれなくてもいいんです、また別のところで食い付くところが見つかれば〉

と述べるが、筆者の講義に参加した生徒たちも食い付いてきた。

「魚は頭から腐る」と言うが…

10人の受講生がクルド人問題や知識人論あるいはカレル・チャペック『山椒魚戦争』の読み解きなどの課題小論文を見事に仕上げた。民族を近代的現象と見ることの是非についてディベートを行ったが、事実と評価をわけてきちんと論じることができる。

この学校では、ドイツ語、フランス語、中国語、韓国朝鮮語から第2外国語を選択することになっている。

ドイツ語を専攻する生徒に、「ドイツ語ではヒストリエ(記述史)とゲシヒテ(評価が加わった歴史)という2つの言葉があるが、ホワイトボードに書いてみて」と指示すると、きちんとHistorie、Geschichteと書く。大学生でも第2外国語の知識は曖昧な人が多いが、武蔵の生徒はきちんと勉強している。

武蔵教育についての梶取校長、高野橋雅之副校長(数学担当)のやりとりが興味深い。