「こんな時こそ絶対に安倍支持」な人に、どうか気をつけてほしいこと

ネット右翼十五年史【特別編】
古谷 経衡 プロフィール

裏切られても、反故にされても

第二次安倍政権は、第一次安倍政権の失敗の轍を踏む事を恐れ、保守的なイデオロギーを前面には押し出さず、アベノミクスを筆頭とした経済政策を優先し、コアな保守層が期待するタカ派的な姿勢は厳に抑制し続けてきた。

以下、具体例を簡潔に挙げよう。

○第一に、2012年の第二次安倍政権発足前、自民党マニフェストに書き込まれていた「竹島の日式典の政府主催」が、いつのまにかフェードアウトし現在でも実現されていないこと(島根県主催の大会に政府代表を送るにとどめる)。

○第二に、保守層の念願であった「8月15日の靖国神社参拝」。安倍総理は2013年12月になって初めて靖国神社を公式参拝したが、8月15日では無かった。その後、安倍総理は玉串料を8月15日に送るだけにとどめ、参拝は一切していない。

○第三に、保守層の歴史観とは正反対の「河野談話」の見直しについて。第二次安倍政権は河野談話の見直しに向けた検証作業を行い、保守派はこの作業に大きな期待をかけた。が、結局は2014年に「安倍内閣で見直すことは考えていない」と明言し、「河野談話の破棄・撤回」はうやむやになって終わった。

○第四に、保守層が注目した戦後七十年談話(2015年8月)。結果は、「侵略」「植民地支配」「反省」「おわび」という、保守派が「引き継ぐべきでない」と考えていた、「村山談話」に盛り込まれた4つのキーワードを全て踏襲したものであった。

○第五に、日韓関係である。2017年、朴槿恵政権との慰安婦日韓合意(岸田・尹会談)に際して、安倍総理は「慰安婦への日本軍の関与」を認め、「心からおわびと反省の気持ち」を明言し、「最終的不可逆な解決」で合意した。これには「日本軍の関与」を一切認めないどころか、「慰安婦は単なる娼婦である」という歴史観を有する保守層の間で、大きな失望が広がった。

○第六は、平昌五輪に際する安倍総理の出席問題。韓国政府が朴政権から文政権に交代し慰安婦合意が骨抜きにされたことから、日本の保守派は沸騰、安倍総理の訪韓中止を期待した。しかし、観測報道を裏切って安倍総理は訪韓した。

これらはすべて、コアな保守層の失望と離反を招いてもおかしくないものであった。明らかに第二次安倍政権は、彼ら保守層が純粋に期待する「理想」に対し、冷淡な反応で返し続けたのである。

にもかかわらず、結局彼ら保守層が安倍から離反することはなかった。むしろ裏切られれば裏切られるほど、まるでひとたび疲労によって破壊された筋肉が復活する際に強化されるように、安倍支持、安倍追従に邁進していくのである。

これは2.26事件の反乱軍と同じく、「君側の奸」理論が働いているからではないか。

 

「安倍さんの本心は違うんだ」

安倍首相は時折、「日教組!」というヤジ(2015年2月衆議院予算委員会)、「哀れですね。朝日らしい哀れな言い訳」(2018年2月、自民党和田政宗参議院議員のフェイスブック上のコメント)など、コアな保守層が狂喜乱舞しそうな「つぶやき」を、まるで「雲の隙間」からつかのま光が射すかのように発することがある。

こうした発言が、たとえ実際の政策面で裏切られ続けても、「安倍総理は、本心では保守派と同じイデオロギーを持っているのだ」「普段は、メディアから揚げ足を取られないようにそれを隠しているのだ」という願望を満足させ、保守層の安倍思慕の糸をつなぎとめ続けている。

○竹島式典が政府主催で開催できないのは、安倍首相は本心ではやりたいのだけれども、韓国と反日メディアが邪魔をしているせいだ。

○尖閣諸島の自衛隊常駐は、安倍首相は本心ではやりたいのだけれども、中国が恫喝したり、反日メディアが邪魔をするからできないのだ。

○「河野談話」の見直しは、安倍首相は本心ではやりたいのだけれども、朝日新聞と反日メディアが邪魔をするせいでできないのだ。

○「戦後七十年談話」についても、安倍首相は本心では村山談話を踏襲したくなかったのだけれども、中国、韓国、朝日新聞が邪魔をして、踏襲せざるを得なかったのだ。

○日韓合意(朴政権)は、安倍首相は本心では合意などしたくなかったのだけれども、朝日新聞や反日メディアがうるさく言うから、しかたなくやったのだ。

○平昌五輪には、安倍首相は本心では行きたくなかったのだけれども、朝日新聞と・・・

一事が万事この調子で、全て安倍を無垢の存在と見なし、愛国心溢れる保守のイデオロギーを湛えた「本心」が、「雲の向こう」には隠されていると信じる。

彼らにとって、安倍を支持しない朝日新聞やメディア、自民党の政治家たちは全て「君側の奸」であり、打破すべき存在である。