『コーヒーの科学』著者が出題! コーヒークイズ
本日、10月1日が「コーヒーの日」であることをご存じでしょうか?
この記念日は、国際コーヒー機関(International Coffee Organization)によって定められたもので、10月1日という日付は、コーヒーの新年度が始まる日ということから選ばれたそうです。
今日は、この「コーヒーの日」にちなんで、『コーヒーの科学』『珈琲の世界史』などの著作がある、旦部幸博先生にコーヒーにまつわるクイズを出題していただきました。
コーヒー好きには知っておいてほしい基礎知識です。ぜひチャレンジしてみてください。
(※本記事は2016年2月に『コーヒーの科学』の発売にあわせて公開された記事を、再構成したものです)
【問1】 コーヒーの原材料はコーヒーノキというアカネ科の植物の種子である。では、コーヒーノキ属の植物のなかで、現在広く栽培され、生産量のもっとも多い種は?
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A アラビカ種
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B カネフォーラ(ロブスタ)種
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C リベリカ種
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D ユーゲニオイデス種
正解は「Aのアラビカ種」です。
コーヒーノキ属には現在125もの種が知られていますが、その中でコーヒー豆を採るために広く栽培されているものは、たったの2種類。「アラビカ種」「カネフォーラ種」です。
このうちアラビカ種は15~17世紀に飲用が広まった「最初のコーヒー」であり、現在も全生産量の6~7割を占めています。残りの3~4割のほとんどは「カネフォーラ種」です。
この2種にCの「リベリカ種」を加えた3種を「コーヒーの3原種」と呼ぶこともありますが、リベリカ種の生産量はきわめて少量です。Dのユーゲニオイデス種はアラビカ種の先祖のひとつで、品種改良などのための栽培はありますが、コーヒー生産用としては栽培されていません。
【問2】現在の、飲み物としてのコーヒーの起源と言われるのは次のうちどれ?
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A エチオピア西南部族が日常の生活で利用した「カリ」
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B ペルシャの医学者たちが薬として利用した「ブン」
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C イエメンのイスラム修行者が眠気覚ましに使った「カフワ」
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D アフリカ東部にあるビクトリア湖沿岸の部族が贈り物や儀式に使った「アムワニ」
正解はCの「カフワ」です。
「カフワ」は15世紀のイエメンで、スーフィーと呼ばれる修行者たちの間で広まった飲み物です。スーフィーとは宗派や地域を超えて活動した神秘主義者たちで、修行中にトランス状態にいたることで神の精神に近づけると信じていたため、アヘンや大麻など、戒律すれすれのドラッグに手を出すことも珍しくありませんでした。
「カフワ」はもともとエチオピアの紅海沿岸部のスーフィーたちが利用していたドラッグで、「(食欲や眠気などの)欲求を消すもの」を意味します。白ワインや、「カート」という植物の葉から作るお茶も「カフワ」に含まれていました。
この「カフワ」が紅海を挟んだイエメンに伝わったのち、入手・保存の容易さなどの理由からコーヒーのカフワが広く用いられることになり、これが現在のコーヒーの起源になったと考えられています。
Aの「カリ」は、エチオピア西南部のある部族では現在も「コーヒー」の意味で使われている言葉です。
この地域では、かなり古くから、種子や葉をお茶のようにして飲んだり、果肉を炒めて食べたり、薬にしたり、求婚する男性から女性の両親への贈り物にするなど、さまざまにコーヒーが利用されてきました。現在の「飲み物としてのコーヒー」の起源とは言えませんが、人類がコーヒーを利用した最初の事例だと考えられています。
Bの「ブン」は10世紀にペルシアの大医学者、アル=ラーズィーの著述をまとめた『医学集成』(925年刊)に登場する言葉で、コーヒーについて書かれた最初の例だと言われています。ただし「ブン」は、焙煎前の生豆をそのまま煮出すものだった可能性が高く、現代のコーヒーとは別物と考えるべきでしょう。
Dの「アムワニ」は、タンザニア西部のブコバと呼ばれる地方で現在でも見られる「噛みコーヒー」です。未熟な果実を薬草と一緒にゆでたあとで天日干し、または薫製にして、それを中の豆ごと噛み砕いて食べます。
【問3】コーヒーの香味について誤っているものはどれ?
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A コーヒーの苦味の中心を担っているのはカフェインである
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B アラビカは酸味と香りに優れ、ロブスタは強い苦味とコクを有する
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C コーヒーの酸味は浅~中煎りで最も強く、深煎りになると減少する
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D これまでに合計1000種類近い香り成分が、コーヒーから検出されている
正解はAです。
「コーヒーに含まれる成分」と言われて、真っ先に思いうかべるカフェイン。このカフェインが苦味の正体だと思っている方も多いと思いますが、カフェインを除去したコーヒーも十分に苦いことがわかっています。
最新の研究によれば、カフェインが担っているのはコーヒーの苦味全体の1~3割で、苦味の主役は「クロロゲン酸ラクトン類」「ビニルカテコール・オリゴマー」などの苦味物質だと考えられています。
Bのロブスタはもともと「頑強な」「粗野な」という意味の言葉で、その名の通り、アラビカ種よりも病気に強く、低地でも栽培可能な「頑強」さと、強い苦味とコクのある「粗野」な香味をもった種だとされています。
Cの酸味のもととなる有機酸は、苦味の成分と同様に焙煎によって生豆中に含まれるショ糖などが分解されて作られます。焙煎が進むにつれて有機酸の量は増えていきますが、深煎りになると、揮発や熱分解によって減少してしまいます。
コーヒーで酸味のもととなる有機酸にはフルーツの酸味と同じ成分も含まれており、実際にフルーツのような香味のコーヒーもあります。
Dにあるように、コーヒーから検出される香り成分はなんと1000種類近くもあります。ただし、このなかには生豆から検出される香り成分で、焙煎すると消えてしまうものも含まれています。また、この数字は浅煎り~深煎りまですべてのコーヒーに含まれる成分の合計であり、一杯のコーヒーから検出される成分は300種類ほどです。
(コーヒーの苦味成分)
【問4】コーヒーの抽出方法は「透過式」と「浸漬(しんせき・しんし)式」の2つに分けられる。次のうち浸漬式の抽出方法はどれ?
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A ペーパードリップ
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B プレス式(コーヒープレス、フレンチプレス)
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C エスプレッソ
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D ダッチコーヒー
正解は「Bのプレス式」です。
「浸漬式」とは、豆を挽いたコーヒー粉と抽出に使う水を1度に混ぜるタイプの抽出法のことで、たとえば紅茶の抽出法は典型的な浸漬式です。
一方の「透過式」は豆を挽いたコーヒー粉に水を通して抽出するタイプで、プレス式以外のA、C、Dはすべてこの方式。程度の違いはあれ、いずれも浸漬式に比べると成分が濃縮される効果があります。
Aのペーパードリップは、喫茶店やご家庭でもおなじみの淹れ方。
Cのエスプレッソも近年よく見かけるようになったイタリア生まれの抽出法で、お湯に圧力をかけて非常に濃厚なエキスを抽出するのが特徴です。
Dのダッチコーヒーは背丈ほどもあるガラスの筒にコーヒーの粉を入れ、一滴ずつ水をたらしながら抽出する方法です。ちなみにダッチコーヒーという名前はついていますが、オランダとは無関係。じつは日本の京都生まれの抽出法です。
【問5】最近注目の新品種「ゲイシャ」の香り。何にたとえられる?
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A 赤ワイン
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B スコッチウイスキー
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C レモンなどの柑橘類
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D カシス(クロスグリ)
正解は「Cのレモンなど柑橘類の香り」です。
ゲイシャは2004年に、新進気鋭の生産国として世界の注目を集めていたパナマで行われたコーヒーのコンテスト「ベスト・オブ・パナマ」で1位を獲得し、それまでの史上最高落札価格を塗り替える1ポンドあたり21ドル、一般的な取引価格の20倍以上の値がついた注目の新品種です。「ゲイシャ」という名前は日本語のようなひびきですが、品種名の由来はこの品種が発見されたエチオピアの村の名前で、日本語の「芸者」は無関係です。
なお、Aの赤ワインの香りはイエメンモカの独特な香りを喩える表現のひとつで、Bのスコッチウイスキーの香りは深煎りコーヒーのスモーキーな香りと同じ成分です。Dのカシスの香りもケニア産などの一部のコーヒーに時々みられます。