元日本経済新聞記者にして元AV女優の作家・鈴木涼美さんが、現代社会を生きる女性たちのありとあらゆる対立構造を、「Aサイド」「Bサイド」の前後編で浮き彫りにしていく本連載。今回は、第14試合「男ウケVS女ウケ」対決のBサイド。
今回のヒロインは、女子ウケ抜群の元「女子校の王子様」。それなりに充実した女子校時代を送ったものの、卒業後に急にキャラ変えすることが難しくてひと苦労……。
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私自身が中学校だけ女子校にいたからよくわかるのだが、思春期の女の子なんて基本的に暇で多感で即物的なので、当然、友情やスポーツ勉学、おしゃれ、なんて言う生ぬるいもので満たされるわけもなく、多くは朝から晩までエッチなことを考えている。それは朝から晩までオナニーしている思春期男子とそんなには変わらない。
でも単純な射精に夢中な男より女の子の方がずっと変態的なので、クリトリスへの刺激でオルガズムがどうのと言うことより、恋だ愛だの妄想や、キャーキャーしたファンダム精神や、泣いたり怒ったりする少女漫画的な行動の方の比重が高いのもこれまた事実で、AVやらエロ本やらでひとまずの欲求を消化できない分、周囲を巻き込み、面倒臭くて、花開き方も多様である。
それでも共学校にいる女の子たちのとる行動なんて言うのは割とステレオタイプで、入学直後に同じ学年の彼氏を作るか、お気に入りの先輩にキャーキャー言いながらバレンタインにチョコでも作るか、そんな感じだ。
対して、共学校が増えたとはいえ未だに残る女子校の生徒たちが、その思春期をどう解決するかと言うとそれは共学でとりあえず周囲に手頃な男子猿が転がっている状況にいる女の子たちよりはもうちょっと工夫を凝らしている。
女子ばっかりの秘密の花園に飽き足らず、ちゃんと外を向いて合コンやら学園祭やらサークルやらで実物の男に手を伸ばす現実的かつ行動力のある女の子たちも一定数いるが、そんなに多数派ではない。文学やアイドルなどで殺伐とした現実をドラマチックに補完する妄想力に長けたタイプの女の子もいるし、BL漫画など倒錯した性欲にはしる女の子もいる。
で、現実派と妄想派の間にいる、他校の男とセックスするほどの行動力はなく、かといって男同士のチューとか描いて満足するほど倒錯してもいない普通の女の子たちは、というと、多くが女子校にいる自分らと同じ性別だけどなんとなく「かっこいい」という形容詞が似合う女の子を生贄にして王子様に見立て、それに恋してキャーキャー言って妄想してチョコとかあげる、という擬似性愛に勤しんでいる。
そのままレズビアンになる人もいないことはないのだが、基本的には中学なり高校なりを卒業すればその経験は思い出として箱にしまい、とっとと男の元へ走る。
無邪気で悪気のないそういう若さはしかし、全く意図しないところで誰かの人生をやや複雑にしている、なんていうこともあるらしい。兎にも角にも私は、幸せ絶頂なはずの自分の結婚式の思い出を忌々しく語る彼女を見て、若い女の子たちって残酷だったんだな、とちょっと思った。