3月10日、JR東海の新型車両「N700S」が報道公開された。「N700A」以来、約7年ぶりとなるニューモデルで、車両名の「S」は最高を意味する「Supreme」の頭文字からとられたという。
JR東海新幹線鉄道事業本部の上野雅之副本部長も、「主要な部分は全て新設計したフルモデルチェンジ。過去最高の車両に仕上がった」と、日本の大動脈を背負う次世代車両の性能に自信を示した。
最大の目玉は「車両の標準化」。これまでの東海道新幹線の基本だった「16両編成」という前提を捨て、8両、12両といった、よりコンパクトな編成長を目指したのだ。
そのためには、客室の下、床下部分に搭載する機器の配置を一から見直す必要があったという。
一見すると、新幹線は先頭と最後尾以外は同じ形状に見えるが、中身はまるで違う。各車両の床下スペースには、主変圧器や主変換装置、モーターなどの駆動システム、いわば新幹線の「心臓部」が配置されている。
1両で走る路面電車などであれば、当然、全ての機器を1両に搭載する必要がある。一方、高い車両性能が要求される新幹線では、各装置の一つ一つが大型になってしまい、1両にまとめるのは非現実的だ。
そのため、新幹線では搭載する機器を分担し、複数車両を繋げて1ユニットと考える設計が基本となる。
実際、現在の東海道新幹線の主力である「N700A」では、床下機器によって車両は8種類に区別され、その全てを組み合わせることではじめて運行が可能になる。素人目には、先頭と最後尾の2両だけあれば走れそうなものだが、話はそう単純ではないのだ。
今回の「N700S」では、主変換装置にSiC素子という新しい半導体を採用したことで、床下機器の大幅な小型化に成功。駆動システム自体の重量はN700Aに比べて、約11トン、20%程度軽くなった。
それによって、車両も4種類にシンプル化。6両、8両など、これまで以上に柔軟な編成が組めるようになり、理論上は最低4両からの運行も可能だという。
最高速度は時速285km(東海道)と据え置きだが、新たに自走用のリチウムイオン電池を搭載したことで、地震時など電力がストップしてしまった場合でも、自力でトンネルから脱出できる。他にも、乗客からの要望が多かったコンセントを、普通車の全座席に設置するなど、快適性も大きく向上している。
「N700S」は、2018年10月頃に、8両による走行試験を開始する予定。営業運転は東京オリンピックのある2020年頃になる見通しだ。JR東海は、今回の車両の標準化は海外展開を念頭に置いたもので、実際に東京〜新大阪間を8両編成で運行するかについては未定だという。
だが、歴史を振り返ってみれば、1980年代には「ひかり」の人気に押され、利用者の減った「こだま」が編成長を減らし、12両編成になった時代もあった。現在は日本の東西を移動する旅客の中心的な移動手段である東海道新幹線も、2027年にリニア中央新幹線が開業を迎えれば、その役割は大きく変わるだろう。
そのときには、あらたな乗客層をターゲットにした、コンパクトな「のぞみ」が走る姿が見られるようになるかもしれない。