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生理前にホルモンバランスが崩れる度に「自殺未遂」を繰り返す女

育てられない母親たち【18】

ノンフィクション作家の石井光太さんが、「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

子供を育てることのできない母親たちの中には、子供どころか、自分自身の命さえ大切にできない人がいる。そういう人が、子供を持ったらどうなるのか。

ある悲しい親子について見てみたい。

IQ70台のボーダーに生まれて

岡美冬(仮名)は、幼い頃から陰のある子だった。言葉の発達も遅く、運動神経も悪く、頻繁に体調を壊した。何より、人とうまくやっていくことが苦手だった。いつも独りぼっちでいて、ほとんどしゃべらない。

両親は美冬とはちがって社交性のあるタイプだった。父親はメーカーの研究職、母親は元教師で、経済的な不自由はまったくなく、夫婦仲もいい。家族の中で、美冬だけが極端に消極的だったのだ。

母親は美冬の性格を心配して、復職するのを止めて、明るい性格にさせようと様々な習いごとをさせた。しかし、それが裏目に出てしまった。美冬はどこへ行っても、溶け込むことができず、余計に家から出るのを嫌がるようになった。幼稚園も不登校が続き、年長の時に辞めてしまった。

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小学生の低学年の頃は、遅刻しがちではあったが、なんとか登校はしていた。だが、暗い性格はそのままで、学校では友達どころか、しゃべる相手さえほとんどいなかった。そして学年が上がるにつれ、「具合が悪い」と言って学校を欠席することが増えていった。
母親はそんな美冬の性格が心配になり、どこか悪いところがあるのではないかと病院を受診させた。精神科の検査で、IQがやや低いボーダーとされる70台だったことが明らかになったが、精神疾患はないと診断された。

6年生になり、美冬はぴたりと学校へ行かなくなった。そして急に「死にたい」と口にしはじめた。

両親は驚き、理由を問いただしたが、彼女はこう答えるだけだった。

「別に(理由は)ない。死にたいだけ」

理由もなく、死にたいというのだ。

きっと何かあるにちがいない。両親はなんとか原因を見つけようとしたり、元気が出るという漢方を飲ませてみたりした。だが、美冬の自殺願望がなくなることはなかった。

 

生理前にリスカ

中学に進学してから、美冬は学校へ行かないばかりか、リストカットの真似事をするようになった。

両親は不登校を容認する代わりに、美冬にカウンセリングに受けることを約束させた。車で1時間以上かかる町にあったが、評判のいいカウンセラーを見つけて通わせることにしたのである。

カウンセラーの話によれば、美冬は月経の直前に自殺願望を膨らませる傾向にあるということだった。月経の直前に、ホルモンの問題でイライラが収まらないなどといった女性は少なくないが、彼女の場合はそれが希死念慮になるのだという。

十代の半ばになり、美冬はインターネットで人々と知り合い、たまに外で会うようになった。そしてこの頃から、本格的な自殺未遂を起こしはじめる。知り合った人たちとの関係がうまくいかなくなる度に、カッターナイフでざっくりと手首を切ったりするようになったのだ。ただ、その理由は両親からすれば捉えどころのないものだった。

美冬はこのように説明したのだ。

「Aさんにメールで無視された」

「B君が仕事のせいにして会ってくれない」

両親にしてみれば、どうしてそんな理由で手首を切らなければならないのか、としか思えなかった。

美冬がネットで会った人々とどのような関係になっていたのかは定かではない。だが、恋愛沙汰による自殺未遂があったことを考えれば、何人かの異性と男女の関係になっていたのだろう。自殺未遂をしたのは、いずれも生理前だったという。