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家族がモメない、税金も安い…相続よりも「遺贈寄付」でいい気分

そんな方法があったのか

一部を寄付して相続税対策

自分が長い時間をかけて築いた財産。これまでであれば、子や孫に相続をするのが当然、「常識」と考えられてきた。しかし、こうした考え方は「財産を遺さなければ」というプレッシャーに繋がる。残された財産は相続争いの種にもなる。

そんな中、「財産は子に残す」という常識を逆転し、死後の財産について、自分の好きなように使い途を決める「遺贈寄付」が注目を集めている。

立教大学社会デザイン研究所研究員で『遺贈寄付』の著書がある星野哲氏が言う。

「まだ広く知られているわけではありませんが、利用する人の裾野は広がってきていると思います。実際、大手のNPOへの遺贈寄付の額は増えているのです」

無料で遺贈寄付の相談を受けている日本財団遺贈寄付サポートセンターに、'16年度に寄せられた相談の件数は、1443件に上った。

どんな制度なのか。同センターの相談員の木下園子氏が解説する。

「遺贈とは、遺言書によって遺産を相続人以外の個人や法人に寄付(贈与)することです。

遺贈によってNPO法人などに寄付をした財産は、課税対象から外れます。現在の主な寄付先は大学や企業、NPO法人など。分野は医療、教育、学術、人道支援など人それぞれです。

とくに、お子さんのいないご夫婦や結婚していない『おひとり様』の中には、自分の思いを未来に託す社会貢献をしたいと寄付を選択する人が増えています」

 

どんなメリットがあるのか。まず、国に納めても何に使われるかわからない相続税を払う必要がなくなり、自分の好きな目的、事業のためにおカネを使ってもらえる。

一部を寄付した場合にも、寄付分は相続税の課税額から控除されるので、税金は安くなる。

「たとえば、ごく単純化したケースですが、7000万円の遺産を子供2人に分けると考えると、そのまま相続すれば、子供が払う相続税はひとりあたり160万円。しかし、このうち1000万円を寄付すれば、ひとりあたり90万円で済むのです」(前出・星野氏)

次に、精神的な側面。遺贈寄付を選ぶことで幸福感を得られる人は非常に多いという。星野氏が続ける。

「この制度は、自分が生きた『証』を残すことも、大学やお世話になった施設などに恩返しすることもできます。

NPOなどへの寄付が社会課題解決につながると思えば満足度は高い。同時に、寄付先を選ぶ中で自分の人生について深く振り返ることができるのも優れた点です。

私がお会いした中には、奥さんの死の原因となった難病の患者さんをサポートする団体に寄付した男性がいました。遺贈寄付は人生の『集大成』だと言う方もいます」

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中には、「相続」がこじれて、「争続」になることを避けるため、制度を利用する人もいる。

「相続争いを避けるためにと、ご相談を受けることもあります。ご自身の親御さんが亡くなる際に相続でモメ、『そうならないように』と考えて遺贈寄付を選ぶ方もいます」(前出・木下氏)

それでなくても近年、「争続」は増え続けている。この10年で家庭裁判所への申し立ては3割増え、'15年度には1万2971件に達した。

東京都に住む植山義男さん(仮名・75歳)も、相続トラブルを避けるために遺贈寄付を選んだ。

「ウチは子供がおらず、年をとってからは、甥っ子のひとりに身の回りの世話をしてもらっていました。

遺産は3000万円ほどで、一度はその甥っ子にすべてを譲ろうかとも思いましたが、ほかの甥や姪と争いにならないとも限らない。かえって不幸を招くかもしれないと考えて、遺贈寄付を選んだんです。

東日本大震災の頃から社会貢献を考えるようになったので、復興支援を行っている団体に寄付することにしました。

遺贈寄付を決めたことがキッカケで東北を訪れるようにもなり、向こうに知り合いもできた。遺贈寄付は『死後』の話だと思っていましたが、生きている間にもいいことがあるんですね」

植山さんは、親族にも相談し、納得してもらって、無事に遺言を公証役場で書き終えている。