病院では、来院した患者さんにまず問診票を書いていただく。それを元に、私たち、医師は患者さんの状態を想像する。それを元に診断にあたるわけだが……。
ある日の問診票にはこう書かれていた。
Q いつから? どのような症状?
A 今朝、階段でコケました。
模範解答です! 助かるなぁこういう問診票。
この患者さんは、朝、出勤途中に駅の階段でコケてしまったという。痛くて歩けず、仕事をあきらめて病院に直行したとのこと。素晴らしい判断です。すぐにレントゲンを撮って骨折の有無を確認しましょう。
次の患者さんは68歳のおばあちゃん。
Q いつから? どんな症状?
A お会いしてからお話しします。
人には言えない症状なのでしょうか? アソコに何かできているとか? 確かに、おばあちゃんとはいえ、いくつになっても女性です。恥ずかしい所に腫れ物ができていれば、言いにくいですよね。まずは診察室へどうぞ。
この患者さんは診察室に入るなりまくし立てた。
「孫がKO大学に行ってまして……息子がニューヨークに住んでおりますの……この度、東京に帰って参りまして。○○商社、まぁD通みたいなもんですよ、ホホホ」
結局この患者さんはただの腰痛で、KO大学もニューヨークもD通も関係なかった。
次の患者さんは31歳の女性。
Q その症状は、いつから?
A 結婚する前から。
結婚する前って、いつ結婚したんじゃい! 俺は彼氏でも旦那でもないんだから、そんなのわかるかーっ!
はい、次。35歳の女性。
Q どのような症状?
A ブツ2
ブツの2乗ってどういう状態ですか? はいはい、わかってます、ブツブツですよね? もしかしてあなたはKyon2ですか? あなた、まさか「何てったってアイドル」?
次の方。70歳男性。
Q どのような症状?
A バケモノ
たぶんそれ、「バケモノ」ではなく「デキモノ」ではないかと思います。スッピンで歩いてた同僚の女性を街で見かけ「バケモノが歩いてたかと思った」などとヒドいことをいう性悪なOLがいますが、あなたは大丈夫です。バケモノじゃありません。それから、カタカナで書かれると、ベテランの私でもちょっとビックリしますので、次からはひらがなで書いてくださいね。
次の患者さんは、なかなかの美人だった。
Q どのような症状? いつから?
A ITAINO(痛いの)YOKUWAKARANAI(よくわからない)。
まだ日本語がうまく話せないフィリピンの女性である。
「痛いの……」
痛いんですね? 私が治療いたしましょう。何とかして症状を伝えようという精一杯の気持ちが伝わってきます。さっきのD通ばあさんとは大違いです。
次の患者さんは24歳女性。
Q どのような症状?
A レベル2
はい? レベル2ってどのレベル? 誰が決めたの? それってITAINO? レベルいくつまであるんですか? レベル2って痛い方なんですか? あなたの言ってることYOKUWAKARANAI。
次の患者さんにいきましょう。
Q 今までどこで治療を受けていましたか
A ムッツリ接骨院
たぶんそれ、駅前の「レッツ接骨院」だと思います。急いで問診票を書いたから、字が乱れてしまったのでしょうか? 大丈夫ですよ。
次は61歳の女性。
Q どのような症状?
A 指を包丁で切った。血が2リットルくらい出て止まらない。
2リットルの出血? 意識は? 血圧は? ボスミン(アドレナリン)の準備を! すぐに診察室へ!
患者さんは歩いてきた。血色も良い。診察室で指のガーゼを取ったら、出血は止まっていた。患者さんはピンピンしている。
「あれっ? さっきまで2リットルくらい血が出てたんですが……」
だからそんなに出てないって!
「1ヵ月前に包丁で切ったときも、2リットルくらい血が出てたんですよねぇ」
だからそんなに出てないって!
この患者さんは、消毒して処置終了。