顔に泥を塗り続けられた習近平が金正恩を迎え入れた「真の狙い」

「千年の宿敵」とまで言われたのに…
李 英和 プロフィール

命の保証が不安だから

他方、核放棄の約束と引き替えに、金正恩は習近平から何を手に入れるつもりなのか。

金正恩は習近平との首脳会談で、核放棄で幾つかの前提条件を付けて見せた。

「行動には行動」の原則で「段階的に解決」と時間を稼ぎ、「朝鮮半島の非核化」という表現で在韓米軍の撤収要求を臭わせる。中国の対北制裁緩和を要望した、との観測も多い。

だが、これらの条件提示は金正恩の勝手な「希望」に過ぎない。それらが聞きいれられる余地は無い。

新たに強硬派で固めたトランプ政権はあくまで速攻の布陣だ。核兵器と関連物資の即時引き渡しを求める「リビア方式」がアメリカの意向である。

この外交的な解決方式が不調に終われば、軍事的選択肢の発動を辞さない構えを崩さない。

そこに中国が陰に陽に経済制裁の抜け穴を作れば、中国と北朝鮮にとっては、藪を突いて蛇を出す格好になる。アメリカが経済制裁に見切りを付け、かえって軍事行動に移るのを早めかねない。

金正恩が習近平に真に望み、習が金に叶えてやれる約束はただひとつ。核を捨てた後に命を落とす羽目になったリビアの独裁者、カダフィ大佐の二の舞を避けてやることくらいだ。

この点でトランプ大統領を信用しきれない金正恩は、役不足の文在寅韓国大統領に不安を覚え、新たな後見人に習近平を加えた。

金正恩はさらなる安全と安心を求めて、ロシアやEU、そして日本などを相手に首脳会談を模索するだろう。

 

出し遅れの証文

そんな「最後の悪あがき」とも言える金正恩の外交戦術も局面打開にはほど遠い。

確かに、戦線を広げて局面を複雑化するのは、形勢が不利に傾いて敗色が濃くなった時の勝負術である。だが、金正恩の外交攻勢は典型的な「出し遅れの証文」だ。

実は、金正恩と習近平は本来なら5年以上も前に顔合わせがとっくに済んでいるはずだった。両名が次期指導者に内定していた時、後継者同士で次の10年間を展望して意見を交わす戦略対話の場が密かに設けられた。

ところが、金正恩は当時、この重要な提案を蹴飛ばした。両名が首脳に就いてからも、金正恩は習近平からの会談要請をことごとく拒否した。

先述したように、その代わりに習近平の顔に泥を塗る無礼を繰り返した。それが今になって習近平に屈服して助力を乞う境遇になり果てた。

これが5年前ならば、金正恩が習近平から手に得られる成果はずっと大きかっただろう。

同じことは核放棄と米朝首脳会談についても言える。

金正恩が最高指導者に就いた当時、アメリカはオバマ大統領の代だった。オバマ政権は北核問題の解決で軍事的選択肢を嫌い、「戦略的忍耐」の美名の下で北朝鮮に弱腰な対応を取り続けた。

その時に金正恩が核放棄を決断していれば、かつて「米朝枠組み合意」(94年)で得たものと同じか、それを上回る代償を得られたはずだ。

その当時、アメリカの主導で国際社会は北朝鮮に軽水炉型原子炉建設、大規模な重油提供と大量の人道食糧援助を実施した。

ところが今、トランプ政権から得られるものはほとんど何も無いのが現実だ。あるとすれば「体制安全の保証」つまりは「命乞い」くらいだろう。