アパホテルが「一泊3万円」の高額路線でも驚異の成長を続ける理由

高いなと思った瞬間、あなたの負けです
三戸 政和 プロフィール

同社は、当日の予約が1番高く売れることから、キャンセル無料でギリギリまで最高値で販売できるシステムを導入している。このような値付けは「ダイナミックプライシング」と呼ばれる手法で、飛行機の予約やスポーツ観戦のチケットなどの購入の際に当然のように行われているものだ。

ごく簡単にいえば、稼働が低い時は安く、稼働が高い時は高く販売、さらにギリギリになればなるほど価格は高くなっていく、というものである。

飛行機の場合、夏休みやゴールデンウィークは格段に値段が高くなるが、それ以外の平常時はガクンと下がる。空気を運んでも仕方がないので、少しでも稼働率を上げて収益を得るために、安くするわけだ。

貯めたマイレージを自由に使えるのも、閑散期限定だ。これも、空いている席を顧客囲い込みのために使っているだけだ。そのことを分かっていながらも、顧客はマイレージを貯めるために、贔屓のエアラインを使い続けるのである。

このような流れは、エアラインのみならずタクシー業界にも波及している。スマホアプリで車を呼ぶことができるUberは、目的地までドライバーと一切のコミュニケーションを取らずに案内してくれるうえ、降車時も決済や領収書を受領する必要がないという大変便利なサービスである。

Uberは、スマホで予約をして、その際に目的地まで設定することから、利用ユーザーの数や、場所、時間を適確に捉えることができる。データによって需給のバランスが適時に把握できるため、価格設定が秒刻みで変わっていくのである。通常時は最安値で乗車することができるが、朝の出勤時間で雨が降っていれば、5倍以上になることもあったりする。

日本のタクシーは規制によって守られていることから、雨が降ろうが、通勤時の繁忙時間であろうが、値段が一緒なため、「高くても乗りたい」というニーズをとらえきれず、絶好の収益機会を逃しているのである。

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このように、需給データを駆使して値付けをする「ダイナミックプライシング」がいま、各業界に広がっている。アメリカでは、野球のチケット販売にもこの手法が導入されており、たとえば優勝のかかった一戦や、「2000本安打」「200勝」など選手の記録のかかった試合のチケットは高値が付けられ、逆に平時には価格が低くなる。

これをホテルに導入して大きな成功を収めたのが、アパホテルなのだ。

エアラインの場合、競合が少なく、比較的、需給の状況を読みながら価格設定をしやすいが、ホテルは競合も多く、近隣ホテルの値段を比較するのは難しかった。

しかし、ホテル予約サイトや、「トリバゴ」などの宿泊予約サイトの比較サイトまで登場したいま、簡単に近隣のホテル需要や価格がわかるようになったことで、ホテルの世界でも「ダイナミックプライシング」が可能になってきたのだ。

ビジネスマンが出張でホテルを選ぶ際、最近は比較サイトを見ながら、大体の予算に合わせてホテルを選ぶことになるだろう。ところが行楽シーズンと重なった場合など、8000円ぐらいのホテルに泊まろうとしても、空室がなく、結局1万円のホテルに泊まらざるを得なくなった、という経験は誰にでもあると思う。

アパホテルがやっているのは、1万円の部屋しか取れなくなったことが分かった瞬間に、自分のホテルの部屋を1万1000円に「値付け」するというものだ。わずか1000円の違いなら、ユーザーはそこまで大きな差を感じないだろう。アパホテルは知名度も高く、アクセスのよい一等地にあるため、「1000円ぐらいの違いなら、アパに泊まるか」と選ぶわけだ。たったこれだけのことで、アパの利益率は、単純に10%も増えるのである。

アパホテルに一泊3万円を支払うのは、確かに高い。これが平常時であれば、利用する人はわずかだろう。ところが、ホテル需要が高くなる観光シーズンなどであれば、泣く泣く3万円のホテルに泊まるしかない。良い悪いではなく、需給の観点からみれば、アパホテルのやっていることは「ビジネスとしては正しい」のである。