財務省・佐川前理財局長が、これからたどる「苦難の道」

それでも、命だけは捨てないで
佐藤 優 プロフィール

政治家は官僚にどう指図するか

邦丸:今後の展開なんですが、焦点はやはり佐川さんがどこまで関わっていたのか、佐川さんに「官邸の意向」を伝えた人間がいるんじゃないかーーつまり、最終的には官邸まで行くのかどうかという話になりますよね。

佐藤:そこのところは非常に難しいんです。というのは、政治家が使う「永田町言語」というものがあるんですよ。

邦丸:はい。

佐藤:たとえば、ある不手際が起きた時、政治家が「オレは気にしていないぞ」というのはどういう意味だと思いますか?

邦丸:文字どおりそのまま受け取ってしまいますね。オレは気にしていないと。

佐藤:永田町では、「お前のほうが深く反省して、なにか措置を考えろ」という意味です。

邦丸:なるほど…。

佐藤:他にも、たとえば「邦丸局長、最近忙しそうだな。オレ以外の政治家の間をチョロチョロしているのか」とか、「今度、邦丸局長に挨拶に行くと伝えておいてくれ」というのは、「すぐに来い」という意味です。

邦丸:はあ〜〜…メンドクサイ世界ですね。

佐藤:でも、それを読み解けないと局長以上まで行けないんですよ。そんな明示的、直接的な指示なんて、永田町の住人がするはずないじゃないですか。

 

邦丸:わかりやすい指示はしないわけですね。

佐藤:あり得ないです。そこは忖度力。こうした能力は、普段は「思いやり」とか「気配り」と言われるんですが、事件化すると「忖度」になるんです。

邦丸:ははは。

佐藤:忖度力がなければ生き残れないわけですよ。

強いて言うなら、「邦丸学園についてだけどな、特に公平にな」とか。これくらいですよ。

どうも、官邸は邦丸学園に関心があるらしい。「特に公平」にと言っているけど、そもそも「公平」なのに「特に」ってどういうことだ? とか、官僚はいろいろ考える。で、これはちゃんとやらないといけない、ということで調べてみると、どうもだいぶ近いようだと。

邦丸:ふふふ。

佐藤:あとは、「邦丸学園、最近頑張っているな」とか。政治家が言うのはこれぐらいですよ。

邦丸:つまり、言質は絶対に取らせないわけですね。

佐藤:絶対に取らせません。全部録音されていても大丈夫。

邦丸:はあ〜〜。

待ち受ける取り調べの「中身」

佐藤:それと、検察につかまった時、問題になるのは「事実」だけではないんです。

ある政治家が「邦丸学園には特に公平に」と言ったという事実があるとする。それに対して、官僚がどう「認識」したか。

政治家のほうは「『特に公平に』と言っただけだから、何か特別な扱いをしろとは言っていません」と話すでしょう。でもそれを受け止めた官僚のほうは、「『公平』に『特に』が付いているなんて異常な言い方だから、優遇しろという意味に受け取りました」と「認識」を話す。そして裁判所が「評価」をする。

つまり物事は、「事実」「認識」「評価」の3つに分かれるわけです。そして、事実関係よりも重要なのは評価ということになる。

事情聴取で「邦丸前長官、これだけの騒ぎになって、国会は止まって、国際ニュースにもなっていますよ。今になって、あなたのやったことをどう思いますか?」と言われたら、どう答えますか?「今になって」と言われたら。

刑事事件では、実行した時点で違法という認識がなければ罪に問えません。その上で、「今になって」どう思うか。

邦丸:今になって、ですか。ちょっと、佐川前長官の気持ちを想像していますが……。

佐藤:たとえば、「これだけ世間をお騒がせして申し訳なく思います」と答えたとします。すると検事は「では、そう書いておきましょう。弁護士に相談してもいいですよ。これ自体は刑事責任を問われないですから」と調書に書いていきますよね。

そうしたら次は、「邦丸前長官、『申し訳なく思います』というのは、いつから思ったの?」と来ます。

邦丸:来るなあ〜。